カレーなるサミット

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「日本は極東の果ての小さな島国なれど、洋の東西を問わず文化の最終的な到着点にして、それに工夫を加えてさらなる高見へ昇華することを得意としてきた……このカレー丼こそが、東西文化の融合したカレーの最終進化形なのです……さて答えは出たようですな。これにて一件落着。カーッカッカッカッカッ!」  極上の和風カレーにこれまでにない微笑みを見せ、すべてを忘れて悟りの境地へと入定しかねない釈迦の姿に、御老公も大変ご満悦な様子で再び高笑いを響かせる。 「いいえ、まだ答えは聞いてませんわ。さあ、すべては出そろいました。どのカレーが一番ですの?」  だが、釈迦はまだどこのカレーが一番なのかを明言してはいない。各々自分の所が一番と考えている各国の偉人を代表して、ヴィクトリア女王が迫る様にして尋ねた。 「おっと……うっかり涅槃に入るとこでした。では、発表します。この中で一番のカレーは……」  女王の問いに、いよいよ釈迦は結果を発表する……と思いきや。 「…と言いたいところですが、美味い不味いも、勝ちも負けも、すべては人の心が勝手に作り出した偏見にすぎません。本来、そのような区別はないのです。よって結果はすべてのカレーが一番であり、またどれも一番ではありません」  皆の予想と期待に反し、釈迦は仏教思想に基づいてそんな真理を語り出す。 「え~! そんなのありですの! 納得いきませんわ!」 「余の辞書に白黒つかぬ勝負の文字はない!」 「いや、確かに真理かもしれませぬが、それでは審査になりませぬぞ!?」 「兵は詭道なり……完全に裏をかかれました」 「助さん、格さん、なんとかしなさい!」  想定外の釈迦の判定に皆は唖然と驚きの声を上げ、結局、問題は解決されぬまま、このカレーなる頂上会議(サミット)は閉幕となった。                       (カレーなるサミット 了)
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