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テストも終わり、終業式間際。ホワイトデーはそんなときにやってくる。
優衣は1ヶ月、変わらず接してくれた。
部活でも、毎日の行き帰りのときも。
「ほらよ」
角を曲がれば家が見える、というところで俺が出した紙袋の中身を見て、優衣は驚いた顔をした。
可愛いラッピングは、市販のものではない。
「…手作り?」
俺は頷き、ふざけた調子で言う。
「どーぞ、召し上がって下さい」
ひとくち、食べた優衣が目を見開いた。
それはネットで見つけた長い名前のケーキのレシピだったけど、見た目と材料を見て美味そうと直感した俺の舌は間違ってはない。
「美味しい!」
「だろ?だてにいつもプロ志望のお菓子を食べてるわけじゃないからな」
あ、と優衣が言った。
「姉ちゃんが教えてくれた。まだ1年だけど、もう、だいたい決まり?」
「うん。あとは学校を選ぼうかなって。いずれ海外にもいけるように」
「そっか」
俺は歩きだす。
「頑張れよ」
うん、と言い、優衣が隣に並んだ。
「集合」
顧問の話を聞くまでもなく、今日はタイムを測る日だ。
テストも、ホワイトデーも終わり、春休みを過ぎたら2年になる。高校で陸上をやるのも、あと、1年ちょっと。
名前を呼ばれ、スタート位置についた。
もともと俺は、中長距離走者だ。一息に焦ることはない。
走れ。
その声は、少しだけ前にある未来の自分のものなのだ。
俺は、走る。
その先へ。
自分のために。
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