その先へ

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走れ! これは誰の声だ? お父さん?お母さん? それとも。 追い立てられるように、俺は走る。 「惜しかったね」 優衣はいつも眉をハの字にしている。 俺は無言でタオルを受け取り、いったいいつから優衣はこんな表情をするようになったのかと考えた。 入部したてで、中学とは違う練習の厳しさに心の中では悲鳴をあげても、同じように不慣れながらも、かいがいしく動き回る優衣を見ると、自分も頑張ろうと思えたんだ。 陸上競技の成績から将来に繋げるのは、簡単なことじゃないし、中長距離走の難しさは、高校に入ってから実感した。 陸上にずっと関わりたいと思うなら、一番現実的なのは、しっかり勉強もして大学に行き、教職に就いて部活の顧問という将来だろう。 けれども今からそれだけを考えるのは、ずっと応援してくれている皆に申し訳ないと思うんだ。 とりわけ、優衣には。 「あとでな」 タイムを記入し終わった優衣に声をかけると、優衣はうん、と頷き顧問のところへ歩いていった。顧問が、そのぎこちない歩き方を見て、急がなくていい、と優衣を制するのを確認してから、俺は部室に向かう。 優衣は足に障害がある。 日常生活に支障はなくても運動は制限されるから、小学生の頃から体育は見学だった。 走る姿がかっこいい、と言われて、子供だった俺は単純に嬉しかったしいい気になった。そして授業でも部活でも優衣にアピールするように走った俺が、優衣が言うその言葉が、「フォーム」の話じゃないことに気付いたのはかなりあとだった。 足を真っ直ぐ出せない優衣の代わりに、真っ直ぐ、どこまでも走ろう。 いつからかそれが、俺が走る原動力になっていた。
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