六年後の金之助

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六年後の金之助

   戌刻(いのこく)(19~21時)近くにもなると、太地浦は死んだように暗くなる。 その中で、岩山をくり貫いて石門を造った、広大な組主屋敷—和田角右衛門頼徳(わだかどえもんよりとく)の家の灯だけが、光り輝く一番星の様に燦然と輝いていた。 「……なぁ、今日のアイツの鼻切(はなぎり)は見事だったな」  陸揚げされた鯨を大まかに切りさばく、鯨寄せ場にほど近い雑木林。背の高い木々が風に煽られ、海鳴りの様な轟音(ごうおん)を上げている。  金之助はその中で、松の木肌に手をついて尻を突き出し、後ろから男に揺さぶられていた。  背後で金之助を抱き込むようにして腰を振るのは、鯨組の三番船を張る羽指頭(はざしがしら)の*親父(おやじ)仁吉(じんきち)で、金之助が十七で刺水主(さしかこ)になってから、かれこれ二年半の付き合いになる。 *親父…一から三番の勢子船(せこぶね)に乗りこむ羽指(はざし)で、全ての船の采配を指揮する権限を持つ 「あ、あいつ…ん、って?」 「はは…惚けんなよ。…っ手前ぇの…っ血を分けた、弟だろう?」  金之助が刺水主(さしかこ)になった翌年、銀次も同じく刺水主になった。  それから半年もしないうちに、「鼻切(はなぎり)」の権限を得た銀次。以来「鼻切」作業と言えば、ここ一年ほど銀次の独擅場だった。  その結果、親父たちに認められた銀次は、来年の春から六番隻に乗り込んで、本格的に一人前の羽指となる。  この銀次の異例の出世は、昔筆頭羽指だった父金蔵の再来と噂されており、実際の銀次の風体も、齢を経るごとに金蔵と瓜二つになってきた。 「しっ、知らねぇっ!あんなの弟じゃねぇ…っ」 「はは…っ、まぁ確かに全く似てねぇモンなぁ。銀次相手だったら、俺の散々使い込んだ魔羅も、流石にこれほど勃たねぇわ」  仁吉はそう言うと、金之助の形のいい尻を掴み上げ、更に深く挿入してきた。 「あっ…!それ…ッ!やめ…っ!あん…それっ、それされるとっ、もたねッ…!」 「だーめ。俺ぁ手前の身体を好き勝手する代わりに、(かしら)の権限で手前ぇを三番隻に乗せてやってンだ。明日も同じ船に乗りたきゃ、黙って抱かれな」 「何だよそれ…ッ!脅しか…ッ!あ…あ…だめ…深ぁ…あっ…あぁ…ッ!」  最後に武骨な仁吉の手で前を抜かれて、堪らなく金之助は、馬の嘶きのような声音を上げた。  何処かで聞いたことのある、獣じみたみっともない声。  身体の高揚とは裏腹に、金之助の心は暗く荒んだ嵐が吹き荒れていた。
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