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「なんか……。ものたんねーな」
2人揃って役所に行って、宣誓書を提出した帰り道。
幸哉はポツリ、そう呟いた。
「紙だして、事務的な話聞いて、はい終了。これで2人はパートナーとしてオフィシャルに認められる事になりました」
「めでたしめでたし」
「めでたしめでたし。確かにな。そうだよな」
「幸哉。なにに引っかかってるの」
「地味だなって」
「役所の手続きに派手な演出を求めても」
「人生の節目なんだぜ?オレたちの。もう少しビックイベントがあってもいんじゃねーのかなって。思ったの」
「結婚式とか?」
「それは……」
自分たちの関係をどこまでオープンにしたものか。
オレたちのような人間は常に迷いを抱えてる。
祝福して欲しい気持ち。見る目が変わってしまうんじゃないか、逆に不快な想いをさせるんじゃないかっていう不安。
だからオレ達は、式と呼べるような物を開けるほど、多くの人に自分達の関係を打ちあけてない。
しばらく無言で並木道を歩いた。
あと一月もすれば薄紅色の桜のアーチがかかるこの道も、今はむき出しの枝が強い北風に煽られているだけだ。
首筋を抜けていく風が、痛いほど冷たく感じられる。
「ならさ。旅行でも行こっか?」そうオレは切り出した。
「それっていわゆる……」
「ハネムーン」
「いいかもな」
そう言って幸哉は口元をほころばせる。
「でしょ?10日くらいお休み取ってハワイとかよくない?」
「ベタ!」
「じゃ幸哉はどこがいいの」
「オレは?」
「オレはどこがいいのかな?」
「オレは……。ヨーロッパとか」
「ベタベタじゃん!」
「定番と言え!」
「ハワイだって定番です」
どこだって構わない。
幸哉と一緒なら、どんな場所でも退屈しないハネムーンになるって判ってる。
だけどできれば……。
あったかいところがいいなって、コートの襟をたてながら、オレは思った。
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