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 悠介が自分の性癖を自覚したのは、いわゆる思春期と呼ばれる年の頃。  友達の多くは小学生ですでに好きな女の子ができたり、そこまではいかずとも異性を意識するというごく当たり前の変化を遂げて行ったが、悠介にはそういう感覚が正直ピンと来ていなかった。  成長には個人差があることは知識として分かっていたし、自分はたぶん『遅い』のだろうと、深く悩んだりしたこともなく過ごしてきた。  なんとなくの違和感を覚えるようになったのは中学に上がってしばらくしてからの事だった。  周りの友人たちが異性を強く意識し始め、クラスの中の誰が可愛いだとか、誰の胸がデカイだとかそんな話をするようになり、校内でちらほらと付き合いだす者が出始める。  そういった周りの環境の変化はさほど気にも留めなかったのだが、自分の環境にまでその影響が及ぶとそうもいかなくなるのは必然で。次第に自分が女の子たちに注目されていることに気づき始め、好意を持たれていることも自覚できるまでになった。  自分を好きだと告白してくれる女の子たちの気持ちはありがたいと思うが、そのことに心躍ることもなく、たいした関心も持てずにいた。  結果、誰とも付き合うことはなく友人たちには「勿体ねぇー!」などと言われ続けたが、女の子に囲まれるより、男友達に囲まれていたほうが格段に居心地がよかったのだ。  その年頃友人たちが興味を持つような、その手の雑誌やらDVDにも興味が持てず──もちろん付き合いという意味ではそういうものの鑑賞にも参加してみたが、画面の中で卑猥な声を上げている女に興奮を覚えることもなく、どちらかといえば、その女を悦ばせている男の骨ばった長い腕や、割れた腹のほうが悠介の目には余程厭らしく映った。  その辺りからだろうか、うっすらとした違和感のようなものが、形を伴って見えてくるようになったのは。  それでも女を好きであるべきという当然の事のような倫理観というものは、当然自分の中にあって、何度も女相手に卑猥な妄想を繰り広げようと試みたが、それが固い筋肉で覆われた男の姿にすり替わり、次第に自覚せざるえなくなった。   自分は、女性に性的興奮を抱けないのだ──ということを。   そういった事を自覚したからと言って、世界がひっくり返るわけでもなく、これまでと何ら変わることなく日常は流れる。ごくごく当たり前の学校生活を続けていくうちにあっという間に月日は流れて行った。  そんな時、たまたま買った男性向けファッション誌のモデルの男の半裸で抜いてしまったときには、もの凄い罪悪感に見舞われたりしたが、それも時が経てば慣れて日常に埋もれていく。  ──そんな日常に小さな亀裂を入れたのは、悪気のない無邪気かつ、無知な哲平の行動だった。
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