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 幼馴染みのこの男の名は岩瀬悠介。哲平がこの町に引っ越してきて最初にできた友人。家が隣同士、双方の子供同士の年齢も近かったことから、家族ぐるみで仲良くなった。  子供たちの成長に伴ってある程度の距離は出来たが、昔ほど親密ではないにしても今でも両家は良好な関係を築いている。  ピリリ、と悠介が手にしたスマホが暗闇の中で光った。 「あ、悪い。電話だ……」  悠介がそう断って電話に出た。 「ああ。姉さん?……うん、いま家。……や、わかんない。病院には母さん付き添って行ったけど。いや、だからいっぺんに言われても──詳しいこと分かったら連絡するから、うん。じゃあ、また」  電話越しの姉に矢次早に質問を浴びせられたのだろう。悠介が電話を切るなり溜息をついた。  悠介の姉は数年前に結婚して、確か隣県に住んでいる。 「いまの葉月姉ちゃん?」 「ああ。母さんから連絡だけ貰ったらしいんだけど、いろいろ聞かれたって俺も分かんねぇってのに……」  悠介が少し困ったように頭を掻いた姿を、なんだか少し懐かしいと思った。 「悠介もこれから病院?」 「──いや、たぶん入院になるだろうからって必要な物用意してくれって母親に頼まれて帰ってきたとこ」  悠介は高校を卒業するとすぐ一人暮らしを始めたため、今はこの家に住んでいない。ただ隣町に住んでいるということで、悠介の母親も遠くに住んでいる娘より息子をあてにしたのだろう。 「……なんか、久しぶりだな」  こうして悠介とまともに顔を合わせるのは。近いところに住んでいても盆と正月くらいしか家に寄り付かない、などと悠介の母親がぼやいていたのを思い出す。 「ああ」 「元気だった?」 「うん。哲平は?」 「元気だよ、俺は」  昔よく遊んでいた仲の良かった幼なじみとの会話がぎこちないのは、ある時を境に、悠介との間に距離が出来たからだ。喧嘩をした覚えもなければ、何かそうなるきっかけがあったとも思えない。  その理由はいまも分からないまま。 「あのさ──」  そう言いかけた言葉は 「ごめん。バタバタしてるからまたな」  悠介の少し申し訳なさそうな笑顔と、玄関のカギを開ける音に遮られた。 「……ああ、そうだな。おじさん、大したことないといいな」 「ん。ありがとな」  ──俺が何かしたかよ?  あの時、そう訊けていたら何か変わっていたのだろうか。
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