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夕食を済ませリビングから自室に引き上げると、隣の家のちょうど哲平の部屋に隣接する位置にある悠介の部屋にも明かりがついていた。
悠介は大学に入ると同時に一人暮らしを始め、実家に戻ってくるのはそれこそ盆と正月くらいのもの。年に一度か二度顔を合わせ世間話をする程度で、その付き合いはすっかり疎遠になった。
世間一般的な幼馴染みという関係など、そんなものなのだろうか。
初めて悠介と顔を合わせたのは哲平が小学校に上がったばかりの頃。
新しい土地に引っ越したばかりで周りには友達もいない。土地勘もなかった哲平の登校を心配した母親が、ちょうど同じ年頃の悠介に哲平の世話を頼んだのがそのきっかけ。
そこからは簡単だった。元々その年頃の子供同士が仲良くなる事などは光の速さと言っても過言ではないが、自分たちも例に漏れることはなかった。
登下校はもとより、帰宅後に遊ぶのも一緒。悠介が所属していた近所のサッカーチームにも誘われ、とにかく気づけはいつも悠介の傍にいた。
悠介はサッカーも上手かったし、勉強もよくできた。優しく面倒見もよく人気者だった悠介は哲平にとってまるで自慢の兄のような存在だった。
あのままずっと近くにいられると思っていたのに──。
「悠介は──あんま変わんねぇな」
ついさっき。久しぶりに顔を合わせた幼馴染みの顔を思い出しながら呟いた。
母親讓りの少し茶色掛かった髪と瞳。はっきりした目鼻立ちにふっくらとした唇。
小さい頃からいわゆる美少年ではあったが、成長した今もその面影は失われていない。むしろそこに男らしさが加わり、ますます魅力的になっていた。
未だもやもやと胸にくすぶり続けている感情。自分が何かしたかと思い返してみても哲平自身には思い当たるような出来事は何もない。
悠介はどうして自分を遠ざけたのだろうか。
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