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午後八時。プルルルル、と店の電話が鳴り、哲平は書き掛けの報告書の手を止めてその電話に出た。
「お電話ありがとうございますアイコンシェ……──、あ、お疲れ様です」
途中で社名を名乗るのを止めたのは、相手が系列店のスタッフからだと分かっているから。閉店時間を過ぎたこの時間帯の電話は本日の売上報告の電話。
哲平の勤める眼鏡店は全国に百店舗ほどあるチェーン店。
そのおよそ百店舗が地区ごとに分かれ、さらに細かいブロックに分けられ、売上報告はそのブロックの長がまとめて本社に行うことになっている。
ブロック長の問いに本日分の売り上げを報告し、ちょっとした業務連絡と雑談を交わしたのち電話を切る。
この売上報告が済めば、本日の業務はすべて終了だ。
「俺も帰るか」
店の電話を留守電に切り替えて、カウンターの上を片付ける。書き掛けの報告書の提出期限は明日の夕方。比較的客の少ない昼までに片づければいい。
哲平の勤務する松浜店は、ブロックの中で二番目に規模の大きな店。規模の大きな店というのはそれなりの売り上げ成果も求められる。
ロープライスの眼鏡店が勢力を伸ばしつつある昨今、昔ながらの眼鏡店の売り上げの実情は厳しい。以前は二百店舗近くあったうちの支店もここ数年で半数近くまで数が減った。
ロープライス店が低価格で押し切ってくるのなら、それに対抗するだけの商品品質、サービスなど付加価値が必要になる。
店舗勤務は嫌いじゃない。入社早々に本社の総務部に配属された同期のことを思えば、自分が店のトップになり実質煩い上司のいない現状はさほど息の詰まることもない。その分求められることも多くなるが、それは仕事をする上で致し方ない事。
周りの友人たちの話を聞く限り、特別給料がいいということもなければ悪いということもないが、昇給もあればボーナスも出る。まぁまぁ恵まれた職場だと言えるだろう。
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