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半沢直右衛門《はんざわ・なおえもん》
「たわけーッ! どいつも、こいつも、イラつかせよってーッ! もう、よいッ! 下がりよろーーーッッッ!!!」
「ハハァーーーッ!」
城内に、殿の怒号が響き渡った。また、今日も、家臣の誰かがヘマをして、殿のご機嫌を損ねたようだ。
殿のご機嫌を損ねると、後々、ほんんんとに、質が悪い。
あぁ~……、今日も、長い一日になりそうだ。
夕げ(夕食)の刻。夕げの料理番が、殿に、食事を運ぶ。
殿のご機嫌が、最高潮に悪いところへ、膳を運ぶのである。どれだけ緊張していることだろう。ほんと、気の毒に思う。
しかし、仕方がない。当番だもの。人間だもの……。
夕げの料理番は……、
……って、なぬッ?!
某では、ござらぬかッッッ!!!
クゥ~~~、恐る恐る、殿に夕げの膳を運ぶと、
「熱ッ! こんなイライラしておるときに、こんな熱いものが食えるかーッ! このうつけ者ッ! えぇ~いッ! もう、今宵は何も食わぬわ~ッ! 膳を下げ~いッ!」
「ハハァーーーッ!」
と、案の定だった。仕方なく、殿の命に従い、膳を下げた。
いくら主君とは言え、ご自分の気分しだいで、いつもいつも家臣を振り回すとは何事だ。せっかく心を込めて作った膳までをも、ぞんざいな扱い。食物の命を何と心得る。
某のハラワタは煮え繰り返っていた。
「どいつもこいつも、イラつかせよって! 爺ッ!」
「ハハッ!」
「あっさり食えるものを持って参れッ!」
「ハハァーッ!」
殿の膳を下げ、台所へ戻っていたところ、爺さんが、「誠に、すまぬが、あっさりしたものを、急いで頼むッ!」と、懇願して来た。
仕方なく、某がこっそりと漬けて、料理番たちとこっそりと食べていた、究極のお漬け物の盛り合わせを、爺さんに託した。
「これは美味い! 美味いぞ、爺ッ!」
「お口に合いましたか?」
「合うた合うた、これは何じゃ?」
「先刻、殿から、『うつけ者ッ!』と、お叱りを受けました、半沢直右衛門が漬けました、お漬け物でございます」
「何ッ! あの、うつけ者の、お漬け物じゃと! 呼んで参れ!」
「ハハァーッ!」
再び、爺さんが台所へやって来て、再び、早急に、殿の御前に参上つか奉れと、某に促した。
「半沢、先刻は、叱りつけて、悪かったのう」
「いえ、殿、そのようなもったいなきお言葉、身に余りまする」
「根に持っておろうな~?」
「何を仰せられまする。決して、そのような……」
「さようか。すまぬな。そなたのお漬け物、大層、美味かったぞ!」
「ありがたき幸せにござりまする」
「して、そなたに、褒美を取らせてつかわす。何でも望みを申してみよ」
「いえ、殿、そのようなこと、某には、誠にもったいのうございます」
「そう遠慮はするな。モノでも役職でも、何でもよいぞ! 武士に二言はない!」
「誠でございますか?」
「誠じゃ!」
「誠にございますね?!」
「お主も疑り深いのう、誠じゃ!」
「では、殿のご身分と家臣である某の身分を、終生代わって頂けまするか?」
「よ……、よかろう!」
と、殿と某の身分が終生入れ替わることとなった。
某を含む仲間の家臣たちが、散々こき使いまくられた分、殿となった某が、家臣となった殿を、終生、散々こき使い、こき使い、こき使いに、こき使いまくった!
「やられたら、やり返す! 倍返しだ!」
どこかで聴いたことがあるようなフレーズでござるが、元・殿の身分であったバカ家臣一名を除き、殿である某と他の家臣たち、そして、民衆たちは、これまでの悪政から解き放たれ、終生、幸せに暮らしたとさ。
めでたし、めでたし♪
~エンディング曲~
♪……アン、アン、アン、とっても大好き、ナオえ~もん~……♪
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