13人が本棚に入れています
本棚に追加
告白
「あのな。パパ達は若い頃子供が欲しかったんだけど、なかなか授かる事が出来なかったんだ…… 」
その当時、誠一とあゆみは不妊治療をしていたが、3年続けても上手く行かなかった。
そのため2人は不妊治療を諦めて、養子を迎えようと施設へ見学に行ったとの事だった。
「そしたら、産まれたばかりの瞳が居たんだ。俺たちを見た途端、キラッキラに目を輝かせてさ。俺たちに小さな手を伸ばして来たんだ 」
その日、施設の前で拾われたばかりの赤ちゃんには、まだ名前がなかった。
だから“瞳”と名付けたのだという。
「その時思ったんだ。この子、俺たちの子なんだって。間違えて別な場所で生まれちゃったんだ、って」
瞳は涙が溢れてくるのを感じた。
でも、それはさっきとは違う、別の涙だ。
今度の涙はとても温かい。
胸に灯った明かりが、涙を温めている。
「瞳は、ちょっと迷子になってただけだよな?」
次から次から熱い涙が溢れて、大好きな誠一が歪んでしまって上手く見えない。
今こそ、誠一の顔が見たいのに。
「ちゃんと瞳が俺たちのところに来てくれたからこそ、その後は岬と翼を授かることが出来たんだ。瞳、パパとママのところに戻って来てくれて、ありがとう 」
瞳は首を左右に振った。
(一瞬でもパパの愛を疑っちゃってごめんなさい。
22年前、離れ離れになったあたしたちは、出会うべくして出会ってたんだ。
22年間、両親をほんの少しも疑う事なく今まで過ごして来た。
あたしの方こそ、変わらぬ愛を注いでくれてありがとう)
「だから、瞳は血の繋がりは無いけど、本当の子供だ。今までも。これからも 」
「そうだよ。姉ちゃん、ママの歩き方とそっくりじゃん。ママの子供に間違いないよ」
岬が当たり前の様にあっけらかんと言う。
「だよね。私達に怒る時の口調なんかパパそっくり。ソファでうたた寝してる時の格好だって完全にパパ似だよ」
翼なんて、言いながら思い出し笑いをしているくらい。
岬と翼の言葉に、パパはニヤリと笑う。
(ほら、やっぱりあたしのパパはカッコいい。
だって、あたしのピンチを助けてくれる)
もう嗚咽を抑える事が出来ない。
(パパ、ママ、今まで“本当の子供じゃない”なんて、疑う余地がないくらいに愛情を注いでくれてありがとう)
沢山伝えたい事が有るのに、嗚咽が邪魔して上手く話せない。
(あたしもパパとママ、岬も翼も心から愛してるよ)
感謝の気持ちを伝えたい。
だから今、あたしの方こそ、素直な気持ちで言いたいの。
瞳は小さく深呼吸した。
胸に溢れる想いを、今、紡ぎ出す。
「パパ。ありがとう。みんな大好きだよ」
最初のコメントを投稿しよう!