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迷い
大変だった就活も無事に内定をもらえたし、苦労した卒論だってなんとか終わらせた。
提出期限ギリギリだったから、最後は誠一にも調べ物を手伝ってもらってしまったけれど。
大学の卒業も確実になった瞳達は、大好きな仲良しグループで卒業旅行に行く事にした。
行き先はグアム。
本当はハワイに行きたかったのだが、予算的にチョット無理だったのはしかたない。
瞳達は“折角の海外旅行だもん、色んな場所に行って沢山遊びたいじゃない?”と、思い切り遊ぶための予算も考えてグアムにしたのだ。
初めての海外旅行に胸がときめく。
今日の空は雲一つない快晴。
まるで瞳の心を映しているようだ。
冬の太陽は優しい。
柔らかな光で私を包み込んでくれる。
花屋の店先に並んだポインセチアも赤く色付き、心なしか輝いてい見える。
もう直ぐクリスマス。
今年のクリスマスは常夏のグアムで過ごせるかと思うと、街の景色までキラキラして見えるようだ。
ついつい頬が緩んでしまう。
「おはようポインセチアさん」
ポインセチアに微笑みかけながら、区役所へパスポートの申請に必要な「戸籍抄本」を取りに行く。
平日の昼間でも混雑する役所の窓口。
こんなにも沢山の人がいるのに、なんとなく静まり返ってて、なんだか不気味だ。
そんな事を考えていたら、瞳の手にした番号が呼ばれた。
「戸籍抄本」を受け取り、料金を支払う。
何気なく書類を眺めた瞳に、戦慄が走る。
「えっ?養子?」
瞳は3人兄弟の一番上だ。
第一子長女だと、今までずっと疑わずに過ごして来たのだ。
何かの間違いではないのか?
もしや間違えて別の人の書類を受け取ったのでは?
そう思い、瞳は恐る恐るもう一度見直してみる。
「坂下 瞳」
瞳自身のもので間違いない。
何度も見返してみるが、やはり「養子」の文字は消えなかった。
優しい太陽は、瞳の気持ちを慰めようと思っていたから、柔らかい光を注いでいたのだと思った。
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