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「瞳? 話してごらん 」
誠一は優しい。
だから大好きだ。
瞳は自他共に認めるファザコンだ。
なぜって、誠一はカッコいいのだ。
髪は薄いし、顔はイマイチではあるが。
瞳がピンチの時には、誠一に必ず助けられてきた。
彼と喧嘩した時だって、号泣してた瞳を慰め、謝りに行きたいと言う我儘を聞いてくれた。
彼の家まで車で送ってくれた上、車に戻るまでずっと待っててくれたのだ。
“今度のピンチは?”
“今度のピンチも助けてくれる?”
「今日ね。パスポートを申請する為に戸籍抄本取りに行ったの…… 」
「なんだ。その事か」
誠一はいつもの優しい顔で笑った。
なんだ、とは一体どういう意味なのだろうか。
事実、瞳は人生最大に悩んでる。
「瞳は迷子になってたんだよ。なぁ、ママ」
優しい顔を崩さずにあゆみを呼ぶ。
全く動揺しているようには見えない。
この軽い空気感は何なのだろうか。
瞳の方が、おかしいとでも言いたいのか。
「岬、翼も、席に着きなさい。パパから少し話がある」
家族全員が、ダイニングテーブルに着いた。
いつもの顔ぶれ。
いつもの風景。
でも、瞳だけは色を失った、異質な存在のように感じていた。
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