空腹

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空腹

 一歩一歩が重い。  物理的にも、精神的にも。  山茶花(さざんか)はカゴいっぱいの薬草を背負って、ゆっくりと山を降りていた。  とにかく、お腹が減った。  山奥のボロ小屋に住み始めてから七日。始めは気楽に大自然と一人の時間を楽しんでいたが、持ってきた食料はあっという間に尽きる。(当たり前だ。)  お金はない。持ち合わせたものといえば、この体と、頭に入った医療と野草の知識くらいだった。  ちらほらと民家が見え始め、自分がいた山奥とは景色も変わってきた。  あとは診療所か、医者か、薬剤師を見つけて、このカゴいっぱいの薬草を売りつけるだけだ。  もう少しでご飯にありつける。トボトボと弱々しかった足取りにも、力がみなぎってきた。  市場が賑わう村の中心部まで来ると、ちらちらとこちらを見てくる村人の視線が痛い。  山茶花の琥珀色の髪が珍しいのか、それともカゴいっぱいに見慣れぬ草を積んでいるからか。  ——なんにせよ気にしている暇はない。こっちは空腹で死にそうなのだ。  ちょうど通りの先に『薬屋』の文字が見えたので、山茶花はそこに向かって足取りを早めた。  お金がもらえれば、ご飯にありつける。  もう少し、もう少しだ。  最後のスパートをかけようとしたその刹那、正面から何かが突進してきて、山茶花と大きく衝突した。 「——!?!」
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