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「……宇狼が、勝ったら?」
「今までの前科を帳消しにするんだと」
山茶花ははっと息を飲んだ。
——稼いだ大金と、その瞳さえも賭けて、宇狼は人生を変えようとしている。
逃げ続けることを、終わりにしようとしたんだ。
それは“27”ではなく、本当の『数国』でしかできない賭けだ。
胸の奥が、じわりと熱くなる。
「やめさせましょう。今ならまだ——」
「柊さん、待って」
中央の卓に押し入ろうとした柊の腕を、山茶花はそっと制した。
「もうゲームは始まっています。それに、これは宇狼が自分で決めたことです」
数十秒、山茶花と目を合わせて、柊はふ、と哀しそうに微笑んだ。
「そう、ですね——」
卓に座った宇狼の後ろ姿に目線をやって、柊は重くため息をつく。
「見守ります、最後まで」
山茶花と柊は宇狼の手札がはっきりと見える位置に移動した。
宇狼の手札は7、7、8、5、5、4、3、2、1。
——かなり弱い。しかし山札からの交換はまだ2回出来る。望みがないわけではない。
山茶花はそっと両手を握りしめた。
どうか、いい札が来ますように。
「では、めくれ」
立会人の号令で、役人と宇狼が、山札から一枚ずつめくった。
役人は2、宇狼は8。
2も8も、置く段によってかなり強い札だ。
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