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「全財産をかけてまで、あなたとゲームがしたかったんです。——見ず知らずではありませんからね。僕にとっては」
柊は店台の棚から、ぺらりと新聞を取り出した。
山茶花は、思わず後ずさる。
——この人は、私の正体を知っている。
柊がぽんと台の上に乗せた新聞には、予想通りの見出しと、写真が載っていた。
——『失踪から一週間以上。第二皇女、見つからず』——
そして、琥珀色の長い髪をした少女の写真が大きく刷られている。
「この国の皇族は、知識豊かであり、『数国』が強いと有名ですから。一度、戦ってみたかったのです」
柊の微笑みに、山茶花は力が抜けて、店台の奥にぺたりと座り込んだ。
「いつから気づいていたんですか」
「その髪色とお顔です。ただ、この村で新聞を取り寄せているのは僕くらいなので、普通の村人は分からないとは思います」
山茶花は驚愕する。文字を読めない人も多い小さな村で、新聞を取っているなど、想像だにしていなかった。
柊はかなり特殊な人物のようだ。山茶花は脱力するようにふう、と息をはいた。
「——このお金、半分お返しします。その代わり、私のことを口外しないと約束してください」
風呂敷を開け、山茶花は札束を数え始める。すると柊の手が伸びてきて、山茶花を制した。
「いいえ、これはあなたが勝ち取ったお金ですから頂けません」
「じゃあ、もう一度“27”をしてください。私が勝ったら、口外しないと——」
山茶花は伸びてきた柊の腕を掴んで訴えた。
柊はくす、と笑う。
「その前に、お昼ご飯にしますか。もう限界でしょう、山茶花さん」
その言葉に、山茶花はハッとする。
そうだ、空腹の限界でゲームをしていたのだった。
「い、いいんですか——」
柊を見あげようとしたはずなのに、空腹を自覚した途端、からだに力が入らなくなる。
あ、まずい。
そのまま、山茶花はふらふらとその場に倒れ込んだ。
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