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昼飯
山茶花の母は、二十年ほど前に隣国から嫁いできて、王の側室となった。
そして十七年前、この国の皇族が生まれ持つ豊かな黒髪も持たず、世継ぎにもなれない“女”として、山茶花は生まれたのだった。
そのせいで、山茶花は生まれてから一度も父親——王の顔を見ることはなく、離宮で過ごした。
しかしその境遇を憎んだことはなかった。山茶花には、離宮を囲む豊かな森林と、母がいたから。
母は、隣国で有名な医者の一族に生まれ、医療の知識に長けた聡明な女性だった。
山茶花も、三年前に母が亡くなるまでの間、たくさんの知識を授かった。
——十七になって、本当に薬草を売りお金を稼ぐことになろうとは、その時は想像もつかなかったが。
「素晴らしい食べっぷりですねえ」
食卓に重なった空の器を眺めて、柊は満面の笑みを浮かべている。
「ほいひいれふ(美味しいです)」
もぐもぐと口いっぱいにご飯を詰め込んで山茶花が答えた。
「きっと、長い間食べ物を口にしていなかったせいで、先ほどは低血糖になってしまったんですね」
山茶花はご飯をごくんと飲み込んでから、がっくりと頭を下げた。
「お恥ずかしいところを……」
「いいえ、とんでもありません」
「ご飯、とっても美味しいです」
柊はこの薬屋に一人で暮らしているらしく、家事も炊事も慣れたようにこなしていた。
「喜んで頂けてよかったです。僕も誰かとご飯を食べるのは久しぶりなんです」
柊も漬物を箸でつまんで、上品に口に運ぶ。
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