昼飯

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「宇狼は帰ってこないんですか?」 「独り立ちしたいと言って半年ほど前に出て行きましたね。この村にはいるようですが」 「へえ。独り立ち……」  山茶花は茶を飲み干して、湯のみをトンと机に置いた。  柊のところにいれば“27”をせずとも食べていけるだろうに。お金が必要なのだろうか。  柊が静かに箸を置く。 「宇狼は孤児なんです。十年前、縁あって僕のところへ来ました」 「孤児——ですか」 「ええ。彼は“27”をやって、役人に捕まえられていたんです」  柊の言葉に、山茶花は息を飲んだ。  宇狼は見た目からして、自分と同じ十七くらいの青年だ。十年前といえば、わずか七歳。  そんな小さな頃から、“27”で身をつないでいたというのなら、その過酷さは想像もつかない。 「山茶花さんは、僕が宇狼に『数国』を教えたのかと聞きましたが、それは違います。——宇狼は元々『数国』のルールを知っていたんです」  ——『違法なゲームを続けて、追われるままでいいの?』——宇狼に問うた自分の言葉が思い返される。  宇狼にとって“27”は、逃げじゃない。生きるための手段、そのものだったんだ。  宇狼のことを何も知らないで、あんなことを言ってしまった。  後悔の念が山茶花の胸を支配する。 「でも、宇狼はルールを元々知っていただけで、ものすごく弱かったんですよ」  柊がくく、と肩を揺らした。 「えっ」
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