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バランスを崩し、体が後ろに倒れて行く。
背中のカゴから溢れた薬草が、頭上にぶわっと舞った。
まるで雪のように舞い落ちる緑の葉っぱの隙間から見えたのは、灰色の瞳をした青年だった。
その青年にガシッと腕を引かれ、山茶花はなんとか転ばずに済んだ。
安心したのも束の間、後ろから、「待て!」と叫びながら役人が二人走ってくるのが見えた。
げ、まずい。
「ッ、すまん!」
青年は山茶花に短く謝ると一目散に細い路地へと姿を消した。山茶花も、反射的にその背中をバッと追いかける。
「——あんた、なんでついてくるんだ?!」
後ろの山茶花を見た青年は息を切らして叫んだ。
「役人に見られるとまずいから」
「あんたもかよ……っこっちだ!」
ぐい、と山茶花の腕を取り、慣れたように路地の隙間の植え込みに身を隠した。
ちょうどカゴいっぱいに入った緑の薬草も、植え込みの中に身を潜めるのに役立っていた。
「クソ、どこ行った!?」
「ここにはいないぞ」
バタバタと役人の足音が遠のいて行く。
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