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宇狼
村のはずれでは、野次馬で人だかりが出来ていた。
「山茶花さん、これを被ってください。髪と顔を隠して」
柊が自分の上着を山茶花に差し出す。
「はい……!」
山茶花も、役人に正体がバレるのは避けたいので、上着の頭巾を深く被った。
柊と山茶花は、急いで人だかりの中心へと移動する。
すると、予想外のことが起きていた。
「——『数国』……」
山茶花は呆然と呟いた。
宇狼と役人が、公式の『数国』を行っていたのだ。
卓の上には、大量の札束と、二十七枚の札が置かれていた。
「すみません、どうしてこんなことに?」
柊が近くの村人に聞く。
「宇狼が持ちかけたんだよ! 役人が二人居たから、片方が立会人になれ、って。そしたら公式の『数国』が出来るだろって」
——本来『数国』ではもっと大きなものを手に入れることができる——。
自分が宇狼に放った言葉が脳内をこだまする。
「一体あの子は何を賭けたんです?」
「持ち前の金と、目玉さ。珍しい灰色をしてるから値打ちがつくって、役人たちが無理やり賭けさせたんだ」
「目——!?」
柊の表情が初めて、不安と緊張に支配された。
自分の育ててきた子がこんな状況に置かれているところなど、柊の感情は察するにあまりある。
山茶花の心は締め付けられたように苦しくなった。
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