宇狼

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「あははは、無様だな」  役人が卓から立ち上がり、宇狼を見下した。  ——負けた。宇狼が、負けた。  今まで稼いできた金すべてと、宇狼の灰色の瞳が、奪われる——。  山茶花はぎゅっと唇を噛み締めた。  人生を変えようとした宇狼のその意思さえも、この一瞬で奪われてしまう。  ——『世界は覆らない』。  あの女(・・・)の、低く憎しみを孕んだ声が、山茶花の頭の中で聞こえた。  皮膚がゾッと粟立つ。  役人は卓上の札束を掴み取った。 「こんな大金、よく手に入れられたもんだなあ。どうせ“27”で集めた汚ねえ金だろ、しょうがねえから俺たちが綺麗さっぱり使い果たしてやるよ」  卓に座って顔を伏せる宇狼は、何も言わない。言葉を口にする気力もないのだろう。  すると役人は宇狼の前髪を乱暴に掴み上げた。  群衆から悲鳴があがる。 「その灰色の目、さぞ高く売れるんだろうな——今ここで両方穿り出してやろうか?」  役人の瞳が厭らしく光った。  その瞬間、考えるよりも先に、山茶花の体は動いていた。 「私とも勝負をして!」  卓の上に、札束が入った風呂敷をドンと叩きつけた。 「あ?」  パッと宇狼を掴んでいた腕を離して、役人は山茶花を振り返った。宇狼が地面に崩れ落ちる。  すかさず柊がかけよって、宇狼を支え起こした。 「大丈夫ですか、宇狼」  その声に宇狼は驚いて振り返り、がくりと肩を落とした。 「なんでいるんだよ、柊……」 「ずっと見てました。よく頑張りましたね」  柊は穏やかに微笑んで、宇狼の肩をそっと抱いた。宇狼は何も言わず、悔しそうに身を埋めた。
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