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宇狼を抱きしめた柊と、視線が交差する。
柊の黒い瞳に浮かぶ強い思いが、伝わってくる。——宇狼の分も頼む、と。
山茶花はしっかと頷いた。そして、役人を見上げる。
「このお金で、もうひと勝負しましょう。私が勝ったらここにあるお金と、あの人の目を貰う。つまりあの人の前科も無かったことにして」
「何都合のいいこと言ってんだ? これっぽっちの金じゃ見合わねえよ」
役人は腕を組んで高圧的に山茶花を見下ろした。
山茶花は、かぶっていた頭巾をずるりと脱いで、真正面から役人を睨んだ。
「失踪中の第二皇女を見つけたら、国から懸賞金がでるんでしょ? それでも足りない?」
役人が、山茶花の眩い琥珀の髪を見て、一瞬で目の色を変えた。
やはり役人には捜索のお達しが出ているらしい。しかし群衆はなんのことかわからず、ぽかんとしている。
——これで負けたら、私もあの離宮に逆戻り、だ。
でも、この勝負にはそれを賭ける価値がある。
山茶花はどうしても覆してやりたかった。
目の色が珍しいだけで、こんな風に虐げられる宇狼の人生を。
「——俺が勝ったら、その金と、あんたの体ごと好きにさせてもらうぞ」
役人は口角を片方だけ釣り上げてニヤリと笑った。
その厭らしい顔に、山茶花はごくりと唾を飲む。
「っやめろ!」
宇狼の声が背後で聞こえたが、山茶花は振り返らなかった。
「分かった」
——これは私が勝手に決めたこと。もし負けたら、宇狼の人生も、私の人生も、捻じ曲げられる勝負。
だからこそ、やる価値がある。世界を覆すために。
山茶花は卓に座った。
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