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薬屋
ぎゅるぎゅると鳴り止まない腹の音をもはや気にもせず、山茶花は『薬屋』に入った。
先程であった青年、宇狼が教えてくれた場所だ。
「すいませーん」
入り口から覗く店内は薄暗くこじんまりとして、しんと静まり返っている。
休業日だろうか。とはいえ表には看板が出ていて、戸も無防備に開いていた。
首をかしげつつ、山茶花は店の中へと進む。
店の棚には、薬草の入った箱が壁一面にずらりと並んでいた。
山茶花は重たいカゴを床におろし、早速棚に飛びついた。
並んだ薬草の中には、あの山では獲れない稀少なものもある。山茶花でさえ目にしたことがないものも。
すごい。ここの店主に、会いたい。
「困ったな。これは大量ですねえ」
背後で和やかな声がして、山茶花はハッと振り返る。
長髪を一つに結わえた長身の男性が、山茶花のカゴを見下ろしてにこりと微笑んでいた。
「あなたが、柊さんですか」
仙人のようなお爺さんを想像していたので、三十歳くらいに見える目の前の男性に、山茶花は面食らった。
「そうですよ。どこで僕の名を?」
「宇狼という人に教えてもらいました」
その名を聞いた途端、柊は目を丸めた。
「おや、近くにいたなら寄ってくれればいいのに」
「役人から逃げていたみたいです」
「“27”、ですか」
柊は苦笑しながら前髪をかきあげた。
その手首には、宇狼と同じ古びた巾着がかかっている。
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