14人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
《白草視点》
「あなたの書き方が悪い」と書き込まれた。その方は、魔法使いが主人公の、ファンタジー小説を書いている。
イライラしながら、本文を入力……。3ページ目になる。
***(3ページ・本文)
「多くの人から怒られましたよ。じゃあ反論します!
ミステリー小説を書く人は、殺人事件を解決したことあるんですか?
ファンタジーで、異世界転生作品を書く人は、異世界行ったことあるんですか?
SF小説書く人は、エイリアンに出会ったり、宇宙船乗ったことあるんですか?
ホラー小説書く人は、人を殺めたことないでしょう!
BL書く女性は、男性同士の恋愛経験ないでしょう!
歴史や時代小説書く人は、タイムマシンで過去を見てないですよ。
現代ファンタジーを書く人は、謎の敵と戦っているんですか!
最後に。魔法使いが主人公の作品書いてる人。あなたは魔法が使えるんですか!
皆さんと一緒で、私も、想像で自分が経験したことがないことを、書いているのです」
***
『今すぐ公開』。あー、言いたい放題ですっきりした。わたし気分悪いから、寝る。
翌日の朝、目が覚めた。睡眠で疲れと怒りが収まっていた。
通勤電車で、自作品、『最短で文学賞を取る方法』をスマホで見た。読み返せば、恥ずかしい内容。まるで、胸の奥を締めつけられているよう。
電車内で顔を伏せながら、椅子に座るわたし。不意に声がかけられた。
「おはようございます」
取引先の社員さんだ。一回だけ会っただけだが、近寄り、わざわざ挨拶をしてくれたのだ。
「おはようござます」
わたしも立ち上がって応じる。顔や名前を覚えていてくれたんだ。うれしい!
会社員になっても、同僚や先輩に助けてもらってばかり。私はネットでも、現実社会でも、一人で生きて行くのが苦手なタイプ。
隣の車両で、騒ぎがあったらしく、人が多く駆け込んできた。警察に逮捕された人がいたらしい。
今日の夜、素直に小説投稿サイトで、子ども染みたサイト上での振舞いを謝る決意をした。
夜になり、帰宅してすぐ、パソコンの前に座る。
『最短で文学賞を取る方法』が、小説投稿サイトの作品ランキングで上位になり、しかも、新しいファンの方々から、励ましのコメントが多かった。安堵のため息が出て、涙が視界を滲む。
小説を投稿できるサイトで、多くの方々と出会えて良かった。
特に、松丸雄大さんとは、過去に小説サークルやオンラインゲームで、親切にしてくれた。
お互いのメールアドレスも電話番号も交換している。ただ、住所と顔写真はヒミツ。
スマホに着信があった。松丸雄大さんからだ。裏声で女性っぽい声で出た。
松丸さんはわたしを女性と思っている節があるので、夢を壊したくない。しかし、心が痛む。
「こんばんは」
「白草さん、今、時間良い?」
いつも明るいの松丸さん。どこか、沈んだ声?
「もしかして、何かあったんですか?」
「ピンポーン。さすが察しが良い。電車内で、してもいないのに痴漢冤罪で逮捕されたんだ」
「ひどい……」
「それでね、拘置所から出るのに、保釈金がいるんだ」
「出す、わたしが出す」
翌日の朝イチで、銀行に行く。わたしの口座から数百万円を松丸雄大さんの顧問弁護士さんの事務所へ送金。疑うようで悪いけど、前もってネットで実在する弁護士事務所って調べた。
松丸さんは釈放されたらしいけど、それっきり連絡がない。
弁護士事務所さんに電話したら、わたしの送金受け取ってない……。弁護士事務所さんの口座番号も違うって。
詐欺の可能性が大きいから、警察に相談するよう、勧められた。
重い足取りで、地元の警察署に行く。
受付で刑事課に案内された。男性刑事さんが、優しく事情を聴いてくれた。
刑事さんが、書類にペンを走らせる。
「白草(しらくさ)さん。えー、本名は、兵頭伸一郎さん」
「ネットは怖いので、本名も性別も不詳にしてたんです」
「賢明ですね。もし、松丸雄大から、連絡があったら、すぐ警察に連絡してください。松丸雄大を詐欺で逮捕します。ところで兵頭さん?」
「はい」
刑事さんは、わたしを疑っているのではない。職務上質問しているのだ。遠まわしに尋ねてくる。わたしは、意味を察した。性別を偽って人を騙したことはない、と断言してしまった。
昔してたオンラインゲームでは、やりたい職種の性別は、女性キャラクターに固定されていた。女性キャラクターをプレイすることになて、名前も白草にしたと説明をした。
同じオンライゲームをしている人で、オフ会に参加した。女性キャラクターのプレイヤーの過半数が、リアルでは、わたしと同じ男性で安心した。
ほかの女性キャラクターをプレイする男性たちと、その日初めて出会った。
「ネットで遊ぶなら、リアルで男性だろうと女性だろうと、楽しければ、それで良いってタフさが必要だよ」
ベテランプレイヤーさんは、そんな話をして、わたしを励ましてくれた。
しかし、松丸に裏声を使って女声で話したのは、男性とバレて、嫌われるのが、どうしても怖かった。(完)
最初のコメントを投稿しよう!