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嘘を見抜く私
私は嘘を見抜ける人間である。
これは人を見る目があるとかそういう話ではない。私はそういう病にかかっているという話である。しかもまた不治の病というやつで、現代の医療ではどうにもならないものである。
私がこの病に冒されてから、私の人生は大きく歪んだ。私は『言葉』を耳に取り入れたときに嘘を見抜くという症状が出現するのだが、この世界に言葉がない空間などない。四六時中言葉に囲まれる。つまり、そんな世界に生きている私は症状を常時発動しているのである。それが辛くなってしまうのは極めて当然の話だ。
嘘を見抜く――それが便利なものだという認識は早いうちに改めてもらいたい。人は嘘を吐きながら生きているというと、なんてひどいことを言うんだと反論する人もいるだろうが、人間は嘘を吐く生き物であることは嘘ではない。この世界は嘘でできていると言っても過言ではないだろう。
人と友好な関係を作るために嘘を吐き。
空気を壊さないために嘘を吐き。
平穏を保つために嘘を吐く。
それが嘘だと分からないうちは、きっと平穏な日常を享受できる。嘘だと知らないのだから、それが真実だと思っているのだから、嫌な思いは誰もしない。
だけど私は違う。嘘を見抜いてしまうばっかりに、真実でないと分かってしまうばっかりに、私だけが平穏じゃない。
だからこそ、嘘を見抜くのは病なのである。
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