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 操舵室内はサロン化していた。  ジュンヤKA47のまわりにはスタッフたちが集まっている。  本番の撮影はエンケラドスの熱水海に到着してからであり、それまでは打ち合わせや雑談で過ごすことになる。着水用のボートに乗り移るまで、まだ時間的な余裕があった。  ミルクティは航法席でタッチパネルを操作しているアキナの後ろに立った。アキナはサイボーグだが、年格好はミルクティとそれほど変わらない。だからというわけでもないが、話し相手にはちょうどよかった。船乗り用に開発されたサイボーグキットを装着しているが、心まで電子化されているわけではないのだ。 「女王様もたいへんねえ」アキナは手を休めて振り向いた。「あんたさ、きょうはあまりシゴトに乗り気じゃないね。なんかさ、様子が変だよ」 「アキナ、内緒でコース変更できない? エウロパならまだ充分に間に合うでしょ」  ミルクティは航法用操作パネルに手を伸ばした。 「はあ? なにそれ」アキナはぱちんとミルクティの手を叩いた。「ちょっとお、勝手なことしないでよ。どうしたの?」しかし、その顔はいたずらっぽく笑っている。  ミルクティは切り出した。 「ラルース・ピラタ号の遭難信号の件なんだけど」 「うん、うん。で?」  アキナはミルクティの不穏なオーラを悟ったのか座り直した。 「ナンカンたちが遭難したとは思えないのよ。おそらく裏があるはず。だからエウロパのタスクフォートレスへ行って、色々調べたいの」 「あら、ご執心ね。エウロパにアクセスして調べてみようか」 「できる?」 「モチ」  アキナはサイドパネルのキーをたたきはじめると、モニタにAI専用の乱数表が出現した。アキナは頭をひねっている。 「変ねえ。アクセス拒否されてるよ・・・  あ、ちょっと待って! ミルクティちゃん、ゴメン。 たった今救難信号を捕捉したから!」アキナの声が一気に緊張した。 「発信源はエンケラドスのカッシーニ海オリンポス火山島付近。ラルース・ピラタ号の遭難位置と同じ場所からだわ・・」  アキナは手元のAIフォンをすばやく頭部に装着すると、目にもとまらぬ速さでタッチパネルを操作しはじめた。 「いや、修正! ラルース・ピラタ号の信号じゃない! 連合救助隊の船が支援要請してる! 救助隊がラルース・ピラタ号から攻撃を受け、被弾した模様。被害は甚大、航行不能」  アキナの緊迫した大きな声が操舵室内に響いた。 「監督、このままエンケラドスへ救助へ向かいますか」  アキナが支持を仰いだ。 「この船に武器の搭載は?」  ジュンヤKA47がわかってるだろうとでも言いたげにアキナをにらみつけた。 「民間船ですから武装していません」 「丸腰であの悪名高きナンカン一味と一戦は交えないだろ。着水地点をエンケラドス・カッシーニ海からエンケラドス・ボイジャー湖へ変更」 「了解。エンケラドス・ボイジャー湖へ進路変更します」  ソーラー帆船の推進機関の震動が伝わってきた。  船長であり監督でもあるジュンヤKA47の指示は絶対である。  ミルクティはあきらめたように目を閉じた。ボイジャー湖はカッシーニ海のほぼ反対側に位置している。帆船に標準搭載されている揚陸艇で脱走する方法を考えていると、だしぬけに船が大きく揺れた。  船内が真っ暗になった。 「ロックオンされました! 回避不能!」 「緊急航法に切り替え!」 「ボイジャー湖への進路変更できません! このまま当初の予定通りにカッシーニ海オリンポス山麓へ緊急着陸します!」 「衝撃に備え、安全防護ポッドに避難してください!」
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