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叔父さんは顔を上げずに注文をした。何の感情がこもってないような、事務的な口調で。
「コーヒーと……イチゴ満喫パフェ」
わぉ。あの特大でイチゴが暴力的にあるあのパフェか。
私は叔父さんの注文を復唱した。
「はい。かしこまりました、コーヒーとイチゴ満喫パフェですね叔父さん」
最後の単語に明らかに引っかかった様子で、叔父さんは顔を上げる。そして私を見て、一瞬お地蔵さんみたいに固まった。それからまじまじと凝視する。
わずかに「あっ」と声が漏れた。
なんだろう、あまりに分かりやすい感情の揺れにおかしくなる。私はわざと慇懃無礼に挨拶した。
「お久しぶりです、叔父さん……あの、甘党でしたっけ?」
「沙由理……どうしてここに!」
言葉がそれぞれ空気銃のように放たれる。私は声を抑えめにしていたけど、叔父さんの言葉は勢いよく壁に伝わり、周囲に拡散した。つまりは大声である。まわりで食事を楽しんでいた人はびっくりしたように私と叔父さんを見る。叔父さんは状況をなんとか収めようとしたのか、やれやれと言わんばかりに咳払いをした。それで状況が一分前と逆戻り。喧噪に守られて、また私と叔父さんが話しても違和感がない状況になった。
私はいつものようにへらへらと笑った。
「ごめんごめん、別に驚かせるつもりはなかったの。ただ、叔母さんだったら分かるけど、叔父さんがここにいるのがめずらしくて」
叔父さんは一瞬言葉の間を開けた。
「アイツは食べ歩きが趣味だったからな……」
私は在りし日の叔母さんの姿を思い出して、うんうんと頷く。
「そうそう。だけどさ、こんなところで叔父さんに会うなんてね、最近父さんにも、叔父さん会わなかったし、結構心配してたよ」
「……余計な心配を」
ぼそりと言葉を吐く叔父さんに私は気づかれないように肩をすくめた。
相変わらずだなぁと思う。叔父さんは人として悪くないのだが、正直とっつきづらいと言われてしまうほどに気難しい。私は叔父夫婦に可愛がられていたけど、子供の頃は叔父が少し怖かった。しかめ面が多かったからだ、でも時折叔母さんに優しい顔をしていたし、私が何をしても怒ることがなかったから、この人、すごく分かりづらいんだなと理解していた。
私は話の方向性を変えようと、目線をあげた。
「それにしても、なんでこんな可愛い店でデザートを食べてるの?」
「いいだろ……どこで何を食べたって」
明らかに触れられたくない話題のようだ。それには同意する、同意するのだが。思わず真顔になってしまう。
叔父さんは私の様子に気づかないみたいで、言葉を投げるようにぶつけてきた。
「とにかく仕事に戻りなさい。客一人にかまけてる暇はないだろう」
「はあい」
叔父さんの言うことは何一つ間違っていない。何一つ間違っていないのだけど、何一つ私の心に響かない。ただ私から離れたいという、邪険ではないが敬遠の意思を感じ取ったのだ。とはいえ、私はまだ仕事は終わっていない。しょうがなく叔父さんから離れることにした。とことこと歩いて、叔父さんをちらりと見る。するとなんともいえない顔をしてため息をつく。落ち着かない様子でテーブルを指先で叩いていた。これから来るメニューが楽しみと言った様子ではない気がする。私は分からず、軽く頭を傾げた。
「叔父さん……?」
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