最果てに咲く花

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ガタンゴトン……。 ガタンゴトン……。 無機質な音に揺すられ、俺は遠く、最果てへと向かっている。平日の真昼間に小さなオンボロ列車に乗るスーツ姿の俺は、周りの客から見ても浮いていると一目で分かる。 でも、それでいいんだ。なにも浮いているのはこの列車内だけの話ではない。このただっぴろい世界から、俺は浮いてしまっていた。世界は突然、色を消した。 ポケットの携帯はけたたましく鳴いている。 もう何度目の振動だろうか。 出なくていい。出る必要もない。 俺は投げ捨てるように、この前明美に貰ったばかりの鞄に携帯を放り込む。その時、今朝書き上げたばかりの遺書が俺の目に入った。 ああ、俺、死ぬんだ。 他人事のように感じていた死を、俺は遺書を見ることで実感できる。 不思議な程、未練がなかった。 それほど俺の脳も体も心も、死をすんなりと受け入れていた。 鞄のファスナーをゆっくり締めていると、屈んだ姿勢の胸ポケットから紅色の花が滑り落ちた。 明美が一番好きだと言っていた"アマリリス"。 そっと拾い上げる間もなく、小さな手が俺の目の前からアマリリスをかっさらった。 「お兄ちゃん! お花、落ちたよ!」 目線を下げると、小学生の低学年とみられる子供があどけなく笑っている。 「こら! 玲奈! 人の物を勝手に触っちゃダメでしょ! すみません……この子が勝手に……」 「いえ、いいんです。玲奈ちゃん、ありがとう」 俺がアマリリスを受け取ると、しゅんとしていた顏が一気に明るくなる。少し萎れているアマリリスよりもよっぽど綺麗に咲いている。 母親はまた一つ頭を下げ、一番端の席に玲奈ちゃんを連れて座った。 アマリリスを鼻に近付け、香りをかぐ。 『また今年も香らなかったなぁ』 一瞬、明美のむくれた横顔が脳裏をよぎった。
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