最果てに咲く花

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だからどうした。 もう痛む心もない、零れる涙もない。 明美を思い出した所で、もう、何も思わない。 俺は親指と人差し指でアマリリスをくるくる回す。 紅色に輝くアマリリス。 生前の明美にどこが好きか聞いてみたことがある。 『なんだかこの花、私に似てる気がしてるんだ』 なんとも抽象的な答えが返ってきて困惑した思い出がある。具体的に理由を聞いてみても、明美は曖昧に言葉を濁した。そんな行動があまりにも明美らしくなかったので、俺は帰ってからアマリリスについて検索する。 すると、アマリリスの花言葉は"すばらしく美しい","誇り"というものだということにたどり着いた。 明美は自分のことを素晴らしく美しく誇りのある人間だと思っていたのだろうか。それならば、確かに、自分でこの花と似ているというのは恥ずかしがるのにも頷ける。でも、明美がそんなことを思っていたなんて少々意外だった。 普段、自分の容姿や技術のことを自慢げに話すことなど明美はなかったからだ。自慢したい気持ちをこらえつつ、内面でひっそり思っていたということなのか? それなら恋人である俺には思う存分自慢してくれればいいのに。明るく美しく聡明な明美を俺は素晴らしく美しく思うし、それこそアマリリスの花言葉通り、明美は俺の誇りでもあった。 この女性となら一生を添い遂げられる。 幸せを咲かせられる。本気でそう信じていた。 だけど、現実は儚くその幸せは一瞬で散った。俺が一報を受け駆け付けた時には既に明美はベッドの上で白く目をつむっていた。
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