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飲酒運転の車に衝突されたと聞いた時は、泣くよりも先に怒る感情が腹の底から憎しみと共にこみ上げてきた。俺はひたすら運転手に届くはずのない罵声を浴びせた。誰もいない部屋で、叫び続けた。
来る日も来る日も壁を殴り、声を枯らし、泣きながら叫んだ。そんな俺を心配してか、毎日のように友人が訪ねてきた。
『やめろ、遼! 明美ちゃんだってそんなこと望んでない!』
俺の友人達は決まってその言葉をぶつけてくる。そんなの、どうしてお前らが知っている。お前らは明美じゃない。
明美の気持ちを知らずに、明美の名前を使って、俺を諌めるな。
『じゃあ会わせてくれよ、今すぐに!
明美に……佐伯 明美に俺を今すぐ会わせてくれよ! なぁ!?』
友人の肩をゆすっても、友人は何も言葉を発さない。所詮そういうものだ。当事者にならないと、気持ちは分からない。きっと今俺を諌めている人も、大切な人を亡くせば俺のようになる。
いつしか声も潰れた。
表情が消えた。
友人が消えた。
一つ一つ、俺の前から物が消えていき最後に残ったのが俺だった。
もう、消してしまおうか。
そうすれば、誰にも迷惑をかけないし、明美にだって会いに行ける。
俺が"死"を意識すると、心の底にほんの少しだけ光が湧いた。
死ぬことを目標に、体は希望に湧き、心に明かりが灯ったのだ。
だから俺は今、こうして電車に一人揺られている。
いくつもの電車を乗り継いで、死へ、最果てへ、明美の元へ、俺は向かっている。死に方ももう決めてある。
海から見える夕日が絶景と名高い最果て峠からの、転落死。
海へ落ちる衝撃を味わえば、明美の気持ちが分かると思ったから選んだ死に方だ。
だから、明美を匂わせる物もつれてきた。それが、アマリリス。
明美自身が言っていた、明美に似ている花。その花言葉通り、素晴らしく美しい場所で、明美が好きだという誇りを持って俺は死ぬのだ。
文字通り、死に花を咲かせることが出来る。
俺は胸ポケットにアマリリスをそっと戻した。
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