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いつしか全身から汗をかいていた。
足どころか手までも震えだした。
ガチガチと小刻みに音が鳴るのは歯の音だろうか。
気が付けば、俺は一歩一歩最果てから後退していた。
そのまま俺は本来倒れる方向とは逆の方へと体を倒した。
目からは枯れたはずの涙が零れ始める。
何が誇りだ……。何が、明美の為じゃなく自分の為に死ぬだ。
上っ面ばかりの言葉を並べて……。
「一番死を怖がっているのは……俺じゃないか……」
気付いてしまった。
こんな直前になるまで目を背けていたのか。
「……怖い……死ぬのが……怖い……」
倒れ込んだ衝撃で俺の胸ポケットから紅色のアマリリスが零れる。
「明美……俺、死ねなかった……。お前の元に行けなかった……」
雫がアマリリスの花弁の中に注がれる。
生前の明美を想い、香りをかぐ。
「……本当に匂わないんだな、お前」
荒れていた呼吸が戻ってくる。
さっきまで聞こえなかった波の音が耳の中に小さく響く。
これから、俺はどうすればいいんだろう。
死ぬことを目的に生きていた俺は、どうすればいいんだろう。
明美ならどうするだろう。
整理した思い出を一つ一つ紐解いていく。
『どうするか悩むくらいなら、その時間で知識を一つでも増やした方がマシよ』
明美なら、きっとそう言う。明美の家族の次に明美と長い時間を過ごしてきたからこそ分かる。だから、まずは明美に似ている君についてもう少し調べよう。
なんで君は匂わないんだろう。
俺は携帯の電源を付け、検索を始める。"アマリリス"と検索するとサジェストに"花言葉"と出てくる。以前に俺が調べた履歴が残っているんだろう。
こんなところに明美との繋がりを見つけてしまうとは。
そんな懐かしさもあったのか、俺は以前見たページをもう一度開いてしまった。
アマリリスの花言葉のページだ。
アマリリスの花言葉は"素晴らしく美しい" "誇り"。
昔見たままと変わらない。
いや、待て。このページにはまだ続きがある。
携帯の右端のスクロールバーはまだこのページに下があることを示している。もしかしてまだアマリリスには別の意味があるのか?
俺は震える指でページを下に送る。
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