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その言葉を見た瞬間、ぶわっと涙が出てきた。涙だけではない。声も漏れた。表情が崩れる。心が強く揺さぶられた。こんな感情は久しぶりだ。
『なんだかこの花、私に似てる気がしてさ』
「明美、お前、もしかしてこっちの意味だったのか?なぁ……。
私に似てるって……」
だとしたら明美、お前は何で私に似てるなんて言ったんだ?
むしろこの花言葉は……。
「今の俺に似てる」
死への恐怖を、必死にごまかしていた。心も体も死への整理がついていると淡々となぞり、死ぬことこそが俺の誇りだなんて息巻いていた。空っぽの心のどこが誇りか。それこそ虚栄だ。
その時携帯が振動する。手に持っていた為かつい通話ボタンを押してしまった。
「遼ー!! アンタ今どこにいるのよー!!!」
この絶景を台無しにする騒音が携帯から流れてきた。
声の主は明美の一番の親友だった優花だった。
「最果て峠」
「さ、最果て峠!? あ、アンタまさか死ぬ気じゃ……」
「今失敗したところ」
「……こ、この大馬鹿野郎!」
鼓膜が破れてしまいそうな程の声に空気が震える。
「そんなことしたら明美が向こうで泣くに決まってる! あんなにアンタのこと一途に思ってたんだ。向こうでしくしく泣く明美は見たくないんでね。アンタは私が死なせない、絶対に」
後半は涙と嗚咽交じりの声になっていることに俺の胸が少し痛んだ。
それと同時に奇妙な違和感を覚えた。
「明美が、俺のことを一途に? しくしく泣く?」
俺の知っている明美は芯が強く人前でも涙を見せない女性だった。
いつも、俺の方が好き好き言って……。
『なんだかこの花、私に似てる気がしてさ』
『あなたが想っているような女じゃないと思うよ』
……もし、俺の考えが正しかったら。それは何と嬉しい虚栄だろう。
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