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「けど?」
俺が聞き返すと、彦三郎はようやく顔に表情をのせる。
「……座敷童では、無くなるだろうな」
人食い座敷童なんぞ、聞いたことが無いだろうと彦三郎は苦笑を浮かべる。
「でも、それしか方法が無いのなら、仕方がないだろ!!」
自分でも驚く位大きな声が出た。
彦三郎も驚いた顔でこちらを見ている。
「それで、悪霊あたりになった俺を、お前はちゃんと退治してくれるのか?」
ひゅっと、自分の喉から変な音が出た。
前に悪霊とやらになってしまった彦三郎の事を考えたことがある。
夜に俺の肉を旨そうだと言っていたあの狂気じみた顔を思い出す。
だけど――
「……その時は絶対に俺がなんとかする」
それに、なってもいないことを心配するよりも、今差し迫っていることを心配するべきだ。
「分かった」
彦三郎は静かに言った。
「じ、じゃあ、札を燃やすべきか」
俺が言うと「待て」と止められる。
「後でいい。
悪霊になってしまった時、俺は多分兄さんを襲ってしまうから」
ちょうど近くに雷が落ちた様だった。
稲光がして、どんという大きな音が鳴った。
電気はついに止まってしまったようで、薄暗い。
まだ夕方も早い時間なのに、まるで夜の様だ。
「スマホを灯り代わりにするから……」
スマートフォンを取り出そうとすると、彦三郎に止められる。
「妖の目には、この位の方がよく見える」
彦三郎はいつものニヤリとした笑みではなく、悲しそうな笑顔を浮かべていることが、薄暗がりでも分かる。
「そんな顔するな」
彦三郎がそんな顔をする必要は、全く無い。
だって、俺が決めたことなのだから。
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