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「ああ、今んとこは大丈夫そうだな」
ありがとうな兄さん。と言われて妙に気恥しくなる。
彦三郎が無事ならそれでよかった。
これからどうするか、その話しをしようとしたところでスマホが鳴る。
気が付かなかったがあれから何度も父から着信があったらしく、十数件の履歴が画面に表示されていた。
慌てて電話に出ると、悲壮感漂う声で「晴泰!? 無事なのか!?」と言われた。
今神社にいる事を話すと車で迎えに来てくれるそうだ。
「座敷童様、逃げるなら今のうちですよ?」
俺が聞くと、彦三郎は面白そうにニヤリと笑う。
「別にいいさ。もういつでもどこにでもいけるんだから」
彦三郎は、とりあえず兄さんの手が治るまでそばにいるさと言った。
◆
それから一時間以上たって二人ともずぶぬれになった後、降りしきる雨のなか、父と本家の人を乗せた車が神社の前で停まった。
本家の人は彦三郎を見るなり「ひぃっ」という悲鳴を上げた。
「父さん、こちら元座敷童さんです」
俺がそういうと、父は神妙な顔をして「この度は……」と言った。
それがおかしくて少しだけ笑った・
「そんな事より――」
彦三郎は何か言いたげな父達を制止してから「まずは医者だろ。血が手拭に滲んできてるぞ」と言った。
父はそれを見ると「怪我をしてるなら、そうと早く言いなさい。い、医者へ」と慌てた風に言った。
「座敷童様もっ!!」
上ずった声で彦三郎に車に乗る様に促す親族が滑稽で、思わず彦三郎顔を見合わせた。
嵐は徐々に北上しているらしく、もうすぐ峠を越えるらしい。
被害が少ない隣街の病院へと車は向った。
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