11-1

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 彦三郎と一緒に住んでいた家は、嵐でめちゃくちゃになってしまった。  あの後、俺は実家の近くにアパートを借りて一人暮らしを始めた。 「この、凍ってるレモンの部分が美味いんだよな」  彦三郎の周りには乱雑に漫画が置いてある。 「なんで、わざわざここに来て散らかすんだよ!」  俺が言うと彦三郎は「えー。だって、門脇で祠だかは作ってくれるらしいけどまだまだ時間がかかりそうだし」と言って笑った。  彦三郎はもうどこにでも行ける。  だけど、門脇の大人たちの話を聞いてかは知らないけれど、門脇家の敷地内に作られる祠で暮らすことを決めたらしい。  その選択を少しだけ馬鹿だなあとは思うものの、俺だってそれほど人生上手くやれてはいない。 「だからって態々俺んちにこなくたっていいだろ」 「引きこもり生活が長すぎて外にいると落ち着かないしなあ」  彦三郎はそんなことを言う。  体つきは完全に大人だ。それが、子供姿の時と同じようにかき氷を食べながら俺の部屋にいる。 「きっと、この家にも福がくるぞ」  ニヤリと笑って彦三郎は言う。それは相変わらず人間っぽくない不思議な笑みだ。 「その前にこのままだと部屋がゴミだめになるだろ!!」  コンビニのレジ袋を片付けながら俺が言う。  少し前までの二人だけの生活とあまり変わらないやり取りだ。  だから彦三郎の見た目が違う事への違和感も大分薄れた。 「そんな事よりご利益(りやく)だろ。 さあ、俺のことを敬いたまえ、崇めたまえ」  ちょっとだけ神様になったというのは本当の事らしく、時々こんなことを言う。 「ハイハイ。じゃあ、今日の夕飯はカレーにしようか」  再就職を果たして、平日は会社勤めをしている。  どちらにせよ土日は作り置きの料理を作る日だ。  だから、それが彦三郎の好物でもそうでなくてもどちらでもいい。 「カレーか!!」  途端に声が弾む彦三郎は相変わらず子供の様な気もする。
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