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1-3
多分これは、新興宗教というやつなのだろう。
どこかの子供が教祖的ななにかになっている。
この子供は自分の親戚なのだろうか。こんな風に扱われて子供らしからぬしゃべり方をするのが普通になってしまって、どうするのだろうか。
このまま大人になってしまうとこの子はどうなるのだろうか。
ここに来るように言った父はこのことを知っているのだろうか。
疑問ばかりが浮かぶ。
けれど、自分には関係の無い事だと、帰ってしまうのがいいこと位分かる。父親にきちんと言い返すことの方が、まだマシなことに思える。
「ああ、もしかしてちゃんと説明してないだ?」
ニヤリと笑って子供が言う。
「毎回、門脇の人間は何で説明を端折るんだろうな」
子供の言葉に疑念がわく。この子供は本家の誰かの子ですらないのだろうか。
誘拐という言葉が脳裏をよぎる。いよいよまずい気がする。
そんな新興宗教に関わり合いになりたくは無かった。
「……あの」
俺がそう言ったのと、ほぼ同時だった。
「俺はホンモノだよ。お世話係の兄さん」
この顔は知っている。子供が新しいおもちゃを見つけた時の様な顔だった。
「俺は、座敷童でこの家に憑いてる。
だから、この家から出ることが出来ないんだ。」
思い込ませるにしたって陳腐な嘘だと思った。
妖怪だの神様だのって言ったってもう少し信者をその気にさせそうなものがあっただろうにと思う。
「しかたねーな。
じゃあ、お兄さんが俺を外に出してくれよ」
親戚に視線を移すとため息を付いた後、へらへらと変な笑みをを浮かべている。
「連れて行ってよ」
年なりの子供の言葉遣いで言われる。
逆に俺が誘拐犯扱いされないのだろうか。この子の親はいったいどこにいるんだろう?
「大丈夫。どうせ出れやしない」
けれど、そんな考え事を見通しているかのように、子供は手を繋ぐことを求める様に手を差し出した。
その手を握る。
「こっちだ」
子供が部屋の奥にある障子を開けた。
そこは縁側になっており、ガラス戸が付いている。
「ここからでいいな。
兄さん窓を開けてくれないかい?」
言われた通り慌てて窓を開けてしまう。
縁側に二人で並んで立つ。
少年がニヤリと笑って、それから庭へと続く何もない空間に手を伸ばした。
その瞬間の事だった。バチバチと火花が散る。
静電気なんて生易しいものでは無い。
何もない空間のはずなのにまずい感じで白く火花が飛んでいる。
「危ない!!」
思わず叫んで、少年の腕を引っ張る。これは酷いやけどになってしまっているだろうと、思った。
けれど、彼の手も腕も、相変わらず真っ白で綺麗なものだった。
少年はニヤニヤとして表情のままこちらを見た。
「どーも、妖怪の座敷童だ。
よろしく。お世話係の兄さん」
先ほど言った事を繰り返した。
けれど今度は、彼の言っていることが嘘だとは思えなくなった。
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