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スーパーとスマートフォンのマップアプリに表示されていた店は、思っていたスーパーよりもずっと小さくて個人商店という言葉の方が近い佇まいだった。
コンビニと店の広さは大して変わらないように見える薄暗い店内は肉だの魚だのが極端に少ない。
ネット通販の方がいいのではないかと思うが、レジの奥にいたおばあさんと目が合うと思わず会釈をしてしまう。
「あんた、どこのもんさね」
おばあさんに話しかけられて、思わずギクリとしてしまう。
初対面の人間と話すのは苦手だ。
「えっと、あっちの門脇の家の……」
あっちの方角があってるかさえもよく分からないけれど、とりあえず指さす。
「ああ、あの空き家の家に越してきたのかい」
方言の強い言い方でおばあさんが言う。
空き家だと思われてることで、彦三郎が本当の座敷童なのかもしれないという気持ちが強まる。
「あそこはいつから空き家かご存じですか?」
いつあの家に妖怪が来たのだろうか。それが気になる。
「あの家は、ずっと空き家だったじゃろうに。
あの家さ建てたときだって自分の親戚さ呼んだって話だ」
金持ちのやるこたあわかんね。おばあさんはそう言ってから、俺が門脇の人間かもしれないと思い立ったのだろう。口をもごもごとさせて視線をそらした。
仕方が無く、カレールーだの野菜だの、インスタントラーメンだのを籠に入れていく。
ニンニクのチューブには埃がかかっていて、諦めて棚に戻す。
それから最後に霜がびっしりとこびりついたアイス用のショーケースから、いくつかアイスを放り込む。
籠をレジに出した瞬間、この店は袋をくれるのか不安になったけれど白いビニール袋に入れてくれた。
「……でも、あの屋敷を建てる前も小さな家があったなあ。
幸子さんっていう女中さんが務めてた筈でなあ」
袋に入れながら、おばあさんが言う。
「それっていつ頃のことですか?」
「さて……、50年ほど前ののような」
歯切れが悪いものの、あの家はそこまで古いようには見えない。
けれど、初めて来た店のおばあさんにそれ以上聞く様な話ではないし、座敷童って知ってます? なんて口が裂けても言えない。
それに、今日も大分暑い。アイスが溶けてしまうんじゃないかという方を優先することにした。
帰りの道でようやく少し屋敷に向う道が坂道だったことに気が付く。
運動不足の足が引きつりそうになりながらペダルを踏む。
けれど、まだ帰った先にいる事もが人間ではないということが信じられずにいた。
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