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俺たちが彦三郎を怪し気な術で閉じ込めているから、うちの一族は安泰なのだ。
逆に言えば、その術さえ壊してしまえば、彦三郎は外に出られるということだ。
札を無理矢理剥がせればいいのだろうか。
それとも――
「なあ、前に少しだけでいいから、俺の事を食べさせてくれって言っていたよな」
彦三郎は何も返さない。
けれど、否定もしなかった。
狐の妖怪は供物が必要だと言っていた。
それがあれば彦三郎は力が増すと。
生贄が一番手っ取り早いというのは理解している。
それであれば俺でいいのではないのか。
「俺を少しかじれば、ここから出られるのか?」
二人で避難できるのであれば、ある程度の事は諦めよう。
チカ、チカ、と電気照明がついては消えをして、またついた。
いよいよ嵐の様な暴風雨が近づいているのか。それとも俺の言葉が彦三郎を苛立たせたのかは分からない。
けれど、すぐに灯りは元に戻った。
彦三郎の顔は、怖い位無表情だった。
ごくりと息を飲んだのは、俺だったのか、それとも彦三郎だったのか。
「生贄を食えば、出られるかもしれないけれど――」
彦三郎が言いよどむ。
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