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玲子ちゃんは私の有無を言わせない様子に圧倒されたみたいで、自分でも恐る恐る胸に指を這わせた。
「あ……?! 何かある」
途端に玲子ちゃんは大人しくなって翌日お母さんに付き添われて病院に行った。検査の結果、小さな腫瘍が見つかって、それは放って置いたら高い確率で十代の内に癌化していただろういうものだった。
診察が終わると案の定、玲子ちゃん親子は病院まで付いてきた私に、何故あんな乳癌検査みたいな事をしたのかと聞いて来た。私はとことん惚けた。それでもまだしつこく聞いて来るので、
「夢に見た」と言って逃げた。
咄嗟についた嘘だけど、夢に見たと言うのはあながちウソじゃなかったかも……。もし今回、見つからなくても私は何度もやるつもりだった。見つけなけゃ玲子ちゃんが20歳で死んでしまうから。
数日後彼女は簡単な手術を受けた。治療は最小限で済んだらしい。その後、私はテニス部員から「○○中のノストラダムス」という有難いあだ名を頂いて、シリアスな騒動に何とも平和なオチがついた。
*
私は連絡先が分かる同級生にメールして、さり気なく玲子ちゃんの話を振ってみた。
『テニス部に津川玲子ちゃんって居たよね』
その返信は……彼女は体育大学卒業後、中学教師になってずっとテニスの顧問をしていたらしい。でも残念な事に彼女は癌ですでに亡くなっていた。それでも玲子ちゃんは最後の最後まで教師としての人生を立派に全うしたと。
享年55歳。
立派に行きぬいた彼女を私は誇りに思う。玲子ちゃん、先に行って場所を開けといてねと心の中で手を合わせた。
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