魔法使いが60歳って。

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 *    さてさて最後は私の番だ。まだお節介を焼きたいところだけど、もう私には時間がない。今の私は一日の全てをベッドの中で過ごしている。いつも私がベッドの上だから、どれだけ物臭(ものぐさ)な人間かと思われていたかもしれないけど、これにはそこそこの理由がある。……敢えて病名を記す事は控えるけど、私はある難病に罹っている。   だったら魔法で治したら、なんて言うかもだけど、自分には使えないのがセオリーなの。    この病は何年か前に有名人が次々にバケツのアイスを頭から豪快にかぶるという映像で世界中に広く認知された。それは研究資金を募るためのパフォーマンスだったけど、続ける内に些か(いささか)お遊びムードになった事が批判されて下火になったようだ。でもこの病気を世界に知らしめる事には成功したと思うし、今でもそういう支援が何らかの形で続いていたら良いなと思う。  症状は脳から筋肉への命令が伝わらなくなるというもの。最初は手足が上手く動かせなくなって、その内に舌や喉の筋力も弱まって嚥下が困難になり徐々に身動き出来なくなる──でも体は動かなくても患者の意識は保たれる。患者から人間としての思考を奪う事は出来ないというわけだ。  しかしそれがこの病気の最大の恐ろしさでもある。  
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