魔法使いが60歳って。

　今私を支えているものが有るとしたら、それは生きた記憶だ。とりわけ中学の三年間の記憶が私のお気に入りでバイブル。あの子供でもない大人でもない時代。６０年生きた中で私が一番好きな時代。

　私の魔法の力は本当だったのかな。まさか思春期を引きずった病人の夢だったなんて事ないよね。

　病気になるずっと前に、あるフランス映画を見た。原因は違うけど主人公も私と同じように身動き出来ず、ただベッドに横たわっている。主人公は夢かせん妄の中で、昔風のゴツい潜水服を着け一人孤独に海中をゆらゆら漂う。水の中で蝶が舞う。潜水服からポコポコと空気の泡が出てる。

　蝶は変身願望の象徴だろうか。
　私の魔法の力は変身願望が見せた夢？　
　蝶の夢みたいなもの？
　だとしたら、私は誰も救っていない？　
　咲ちゃんも西嶋君も玲子ちゃんも
　誰一人救えなかった？　　　

　私はあの映画の主人公みたいに潜水服の中で蝶の夢を見ていただけなんだろうか。