魔法使いが60歳って。

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 *    ミッキーマウスの腕時計は8時15分を指している。校門をくぐると咲ちゃんの後ろ姿が見えた。茶色い髪の毛ですぐに分かっちゃう。 「咲ちゃーん!」 「あっ綾ちゃん。今日は遅刻じゃないね」 「私だって毎日叱られたくないからね」 「ふふ綾ちゃんは遅刻し過ぎ。あ、そういえば綾ちゃんはどこの高校受けるか決めたの?」  お、咲ちゃん自らその話に持って行ってくれるなんてラッキー。 「私はまだ悩み中。咲ちゃんは?」 「私は北高かなあ」    北高は地元で最難関の進学校。 「流石です! 所で人生設計なんてのも考えてたりして?」     これは私なりに探りを入れているつもりの質問だ。教室に着くまで色々聞いちゃお。 「私ね、将来、CAに成りたいの」   「はーやっぱり咲ちゃんは志が高いわ」  なんて感心している場合じゃない。 「入りたい航空会社も決まってるんだ」    「わぉ」  早すぎ。まだ15歳だよ。 「私、小学生の時、家族旅行の飛行機で気分が悪くなっちゃって、もう死んじゃうってくらい脂汗タラタラでね。その時のCAさんの対応が神だったの。神というか天使? 私もこんな仕事したいって思ったの。ちなみに太洋航空ね」    ダメ。その会社はダメだから。 「咲ちゃん。航空会社なんていっぱいあるじゃない。これからはLCCとかの参入もあるし、もっと他も考えなよ」 「やだ、綾ちゃん。あくまでも希望だから」  希望だなんて……咲ちゃんは合格するよ。 「いやいや咲ちゃんだったらどこだって受かっちゃう。頭が良くて可愛いくて。だから咲ちゃんの可能性は太洋航空だけじゃなくて無限大にあるんだよ」  私は焦って早口で捲し立てた。 「あ、ああ忠告ありがとう。そうだよね、綾ちゃんが言うように色々あるよね。ゆっくり考えてみるよ」    咲ちゃんは私の熱弁に苦笑いすると、日直だからと言って駆け足で教室に入って行った。
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