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ある朝ベッドの中でまどろんでいると、姉が新聞を手にドカドカと私の部屋に入って来た。そしてある記事を有無も言わさず見せると又ドカドカと出て行った。まあ忙しい人だ。でも私が夢見る乙女でいられるのは全て姉のお陰だ。
その記事には懐かしい名前があった。
西嶋國男(60)
西嶋君は小さな頃から柔道をやっていて、色んな大会で優勝してきた地元の有名人だ。
放課後の体育館では毎日、柔道の練習が行われていて、私は卓球部の補欠で球拾いをしながらいつも西嶋君の練習をチラチラ見ていた。西嶋君がグンッと踏ん張る度にズズズっと重い畳がずれる。その踏ん張るゴツい足が男らしくて友達でいられる事がとても誇らしかった。
西嶋君と私は三年間同じクラスでとても仲が良かった。柔道以外の彼は可愛らしくて、笑うと無くなりそうな細い目に暖かい人柄が滲み出ていた。幸いお互い男女としては全く好みじゃ無くて恋愛関係は一切起こる事なく友人関係が卒業まで続いた。
西嶋君はそのまま柔道家として素晴らしい人生を送るのだろうと私は思っていたけど、ある不幸が西嶋君を襲う。それはソウルオリンピックに出場が決定した年で、地元総出でお祝いムードの最中に起きた。
西嶋君は交通事故に巻き込まれたのだ。
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