第一章 精鋭部隊の劣等兵

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ヘリの降下が止まり、レーシアを先頭に飛び降りる。高さは二メートル無いくらい。決して危険な高さではないが、念のため、工具を持って飛び降りることはせず、なるべく低い高さから落とし、その後ブラッドも飛び降りた。 カリーナがアスコートに合図すると、ヘリが上昇し、来た道を引き返していった。 「ヘリのドア開けっ放しでいいんですか?」 ふと思ったことを聞く。ブラッドが最後に飛び降りたが、ドアを閉めることはしなかった。というか、できなかった。 「あのヘリなら大丈夫」 ヘリの音が遠くなってから、レーシアが答えた。 フェデリカはもうあそこに見えている。三人で周囲を警戒しながら、急ぎ足で北口まで向かった。工具箱に入ってた、必要なさそうな重い工具を抜いてきたおかげで、走れるくらいにまで軽くなっていた。 「ブラッド、右」 声がかかるまでわからなかった。ブラッドの右後ろからゾンビが走って来ていた。感染したばかりなのか、ふらつきながらも人のように走ってきた。 ブラッドはゾンビの直進方向から逸れるように動き、銃を抜く。片手は工具箱で塞がれ、片手で標準を定めることになった。しかし、工具箱の重みのせいか、体のバランスが取れず、標準が左右に揺れた。そのブラッドの前にカリーナが立ちふさがる。 「あたしがやる」 カリーナは正面から特攻を仕掛けた。腰から抜き取ったのは銃ではなくナイフ。それからは一瞬の出来事だった。 ゾンビが伸ばす手の下をくぐり抜けるように中腰になり、走り抜けるようにゾンビの足を切り裂いた。よろめき倒れるところで、トドメの足蹴り。ゾンビは飛ばされて生きてはいたが、足を切られ、立ち上がることができないようだった。今のうちに距離をとるべきだろう。 ランディングポイントから近かっただけあって、数分で北口に着いた。フェデリカはあの時と変わることなく、静寂に包まれている。 「臭い」 レーシアが鼻を抑えた。強烈な異臭が漂っていた。 「昨日の殲滅隊だな。殺すだけ殺しておいて、あとは放置かよ」 完全に死んだゾンビの腐敗は早い。一晩でこれほど腐敗するものなのか。 臭いを気にしながらも、工具箱を開け封鎖を始める。レーシアは持ってきていた鉄網を隣に置く。 「封鎖はブラッドに任せる。あたしらは護衛に回る」 「任せたわ」 「了解」 やることは鉄網をフェデリカを囲む鉄フェンスに接合するだけ。棒状に丸めておい鉄網を広げる。縦七十センチ、横ニメートルの薄い鉄網だ。封鎖する出入り口の幅は三メートルくらいだろう。鉄網を余分に持ってきて正解だった。 針金を取り出して、鉄網と鉄フェンスの網目を結ぶ。 「ブラッド急いでくれ。ゾンビが湧いてきた」 振り返ると、殲滅したはずのゾンビがいたるところにさまよっていた。何かを求めて進むわけでもなく、足を引きずりながら歩き、足がない者は這いずり回っていた。 カリーナからは焦りの表情が見て取れる。ただ、ゾンビはこちらに気づいていない。女二人は戦闘体制のまま、膠着状態を維持する。 「どうしてこんな結びにくいんだよ」 ブラッドは鉄網の結束に苦戦していた。柔らかい紐ならまだしも、硬めの針金では折り曲げることすら難しかった。 「どいて」 視界の右側からそっと手が伸びる。 「周囲の警戒を」 レーシアに指示され、作業から離れる。銃を取り出し辺りを見回す。まだ、ゾンビたちはこちらに気づいていない。周囲を警戒しながらも、レーシアの方を見る。彼女は信じられない速さで作業を進めていた。あんなにも硬かった針金をいとも簡単に折り曲げ、強く綺麗に縛り付けていた。ヘリの機内で見た銃の扱いから、このような作業まで手早くこなしているところを見ると、レーシアは器用で細かい作業も得意なようだ。 「コツがいるのよ」 視線に気づき、レーシアがこちらを睨んだ。慌てて防衛に集中する。 「もう終わったわ」 集中し直したブラッドだったが、再び見られずにはいられなかった。既に4枚の鉄網を結束し終え、封鎖を完了していた。縦の大きさがないため、地面から隙間なく封鎖することは出来なかった。足元に三十センチほどの隙間があるが、この下を通ろうとする知能を持つゾンビはいないだろう。鉄網をよじ登るゾンビもいないと思う。レーシアのゾンビに対する知識と技術で、簡易的かつ効果的なバリケードができた。 結局、ブラッドは何もできずに封鎖作業を終えるかたちになった。 カリーナがバリケードに近づき、人蹴り入れる。耐久度の確認のためだ。大きな音が立ち、一瞬ゾンビの方を警戒したが、聞こえていないようだった。バリケードも頑丈のようだった。
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