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「さあ、誰が帰るのか決めよう」
ダニエルが両手を広げた誘う。
「ここに四人もいらない。二人で充分だ」
「だったらあんたが帰るか? 面倒くさいのは嫌いなんだろ?」
ダニエルとカリーナが睨み合う。二人の性格から考えても関係が良くないのは容易に想像できた。
「帰りたい奴いるか?」
ダニエルの声には誰も反応しなかった。少し間を開けてレーシアが手をあげる。
「誰もいないなら私は帰るわ」
三人を置いてヘリに乗り込む。ヘリが着陸してから随分経ったが、ゾンビはまだ来る様子はない。加勢した時に周りのゾンビを片付けられたのか。
ゾンビがいないのは幸運だったが、それがさらに二人の言い争いを盛り上げた。
「あとは男に任せろって」
「あたしは帰るつもり無い。ブラッドを帰らせればいいだろ」
「ふざけんな。お前となんか任務できるわけないだろ」
「だったらやっぱりあんたが帰るんだな」
二人の言い合いはいつまでも平行線を辿ったまま。見ているだけのブラッドは流石に呆れを感じていた。遠慮しながらも二人の間に割って入った。
「東口の封鎖がまだ出来ていません。それは誰がやるんですか。できる人が残らないと任務を遂行できません」
言い争いが静まった。二人とも封鎖作業には自信がなさそうだった。
「……だったら私がやろうか」
一度ヘリに乗ったレーシアだったが、再び降りてきて声をかけた。
「私とカリーナはペアだ。ブラッドには悪いけど、ダニエルはベンダーを責任持って連れて帰って」
こんなにも長く話すレーシアをブラッドは初めて見た気がした。
「ああそうか。だったらせいぜい女二人で頑張れよ。腐ったクソ野郎に噛まれないように気をつけるんだな」
反抗期に入った子供のようにヘリに乗り込んだ。ブラッドも乗り込む。
「二人とも、あとはお願いします」
レーシアに工具箱を手渡す。
「サンプル頼んだわ」
「……どうか……お気をつけて」
後ろからベンダーが声を振り絞った。
「さっさと閉めろよ」
ダニエルに促され、静かにドアを閉めた。カリーナはへりに目もくれず、フェデリカの方の遠くを眺めていた。
全身に重い重力がのしかかった。ヘリが浮き上がったのだろう。急いで席に座る。ベンダーは無理に起こさず、寝かせたままにした。
ベルトを締め、ベッドホンでフランにコールする。
「ベンダーの状態は?」
向こうから先に声を出した。
「顔に引っ掻いたような傷、腕には噛まれた跡があります。意識はありますが、急いだ方が良さそうです」
「わかった。少しスピードをあげる。ベンダーが振り飛ばされないように注意してくれ」
「了解」
直後、ヘリが前方斜めに傾いた。ベンダーがブラッドの方に滑ってくる。上手く足で受け止め、足を頭の下に潜り込ませ、枕のようにしてやった。
「こんなやり方ですみません」
「……いえ……ありがとう……ございます」
意識はまだある。しかし、ヘリになる時ほどの元気はない。大量出血で異変が起こるのも時間の問題かもしれない。
「フランさん急いでください」
「今そうしてる。着陸ポイントに医療班の人間にも集まってもらってる。着陸後すぐに処置できる」
ヘリの速度がまたさらに上がった気がした。フランもこの状況に焦っていた。
「もうすぐ着く。降りる準備していてくれ」
数分後、フェデリカが見えてきた。ベンダーはまだ目を開けてこちらを見ていた。
「もうすぐ着きます。頑張ってください」
励ます言葉にもベンダーはうなずくだけだった。
ヘリが進行をやめ、少しずつ降下していく。窓から下を見ると、医療班らしき人たちが医療用マスクをつけてベンダーを待ち構えていた。
着陸後、すぐに扉が開き、ベンダーを最優先にヘリから降ろした。担架に乗せ、すぐに船内へと運ばれていった。船内へ入る医療班員の後ろ姿を眺め、一息ついた。なんとか間に合った。
「二人もすぐ降りてくれ。俺はまたフェデリカに向かう」
プロペラが音を立てる中で、フランがブラッドたちに呼びかけた。ベッドホンは付けていなく、フランの声は怒鳴り声に近かった。
ダニエルは未だにふてくされているようで、何も言わずに一人で船内に歩いていった。
「こちらブラッド。無事にアルフレッド号に到着。ベンダーも意識がある状態で医療班に渡しました」
通信機で、フェデリカにいる隊員に連絡した。
「そんなことで連絡するな」
その声を聞いて、心臓が跳ねた。隊長のエドウィンだった。
黙り込むブラッドに隊長が続ける」
「他に用がないなら切るぞ。こっちは忙しい」
ブラッドもこのまま行き下がるつもりはなかった。
「こちらで何かすることはありますか? いざと言う時はいつでも向かいます」
「お前なやることは何一つない。船で大人しく待ってろ」
返事するまもなく通信が切れる。
「あとは頼みます」
ブラッドは一声かけて飛び立つヘリを見送った。
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