第一章 精鋭部隊の劣等兵

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「さあ、誰が帰るのか決めよう」 ダニエルが両手を広げた誘う。 「ここに四人もいらない。二人で充分だ」 「だったらあんたが帰るか? 面倒くさいのは嫌いなんだろ?」 ダニエルとカリーナが睨み合う。二人の性格から考えても関係が良くないのは容易に想像できた。 「帰りたい奴いるか?」 ダニエルの声には誰も反応しなかった。少し間を開けてレーシアが手をあげる。 「誰もいないなら私は帰るわ」 三人を置いてヘリに乗り込む。ヘリが着陸してから随分経ったが、ゾンビはまだ来る様子はない。加勢した時に周りのゾンビを片付けられたのか。 ゾンビがいないのは幸運だったが、それがさらに二人の言い争いを盛り上げた。 「あとは男に任せろって」 「あたしは帰るつもり無い。ブラッドを帰らせればいいだろ」 「ふざけんな。お前となんか任務できるわけないだろ」 「だったらやっぱりあんたが帰るんだな」 二人の言い合いはいつまでも平行線を辿ったまま。見ているだけのブラッドは流石に呆れを感じていた。遠慮しながらも二人の間に割って入った。 「東口の封鎖がまだ出来ていません。それは誰がやるんですか。できる人が残らないと任務を遂行できません」 言い争いが静まった。二人とも封鎖作業には自信がなさそうだった。 「……だったら私がやろうか」 一度ヘリに乗ったレーシアだったが、再び降りてきて声をかけた。 「私とカリーナはペアだ。ブラッドには悪いけど、ダニエルはベンダーを責任持って連れて帰って」 こんなにも長く話すレーシアをブラッドは初めて見た気がした。 「ああそうか。だったらせいぜい女二人で頑張れよ。腐ったクソ野郎に噛まれないように気をつけるんだな」 反抗期に入った子供のようにヘリに乗り込んだ。ブラッドも乗り込む。 「二人とも、あとはお願いします」 レーシアに工具箱を手渡す。 「サンプル頼んだわ」 「……どうか……お気をつけて」 後ろからベンダーが声を振り絞った。 「さっさと閉めろよ」 ダニエルに促され、静かにドアを閉めた。カリーナはへりに目もくれず、フェデリカの方の遠くを眺めていた。 全身に重い重力がのしかかった。ヘリが浮き上がったのだろう。急いで席に座る。ベンダーは無理に起こさず、寝かせたままにした。 ベルトを締め、ベッドホンでフランにコールする。 「ベンダーの状態は?」 向こうから先に声を出した。 「顔に引っ掻いたような傷、腕には噛まれた跡があります。意識はありますが、急いだ方が良さそうです」 「わかった。少しスピードをあげる。ベンダーが振り飛ばされないように注意してくれ」 「了解」 直後、ヘリが前方斜めに傾いた。ベンダーがブラッドの方に滑ってくる。上手く足で受け止め、足を頭の下に潜り込ませ、枕のようにしてやった。 「こんなやり方ですみません」 「……いえ……ありがとう……ございます」 意識はまだある。しかし、ヘリになる時ほどの元気はない。大量出血で異変が起こるのも時間の問題かもしれない。 「フランさん急いでください」 「今そうしてる。着陸ポイントに医療班の人間にも集まってもらってる。着陸後すぐに処置できる」 ヘリの速度がまたさらに上がった気がした。フランもこの状況に焦っていた。 「もうすぐ着く。降りる準備していてくれ」 数分後、フェデリカが見えてきた。ベンダーはまだ目を開けてこちらを見ていた。 「もうすぐ着きます。頑張ってください」 励ます言葉にもベンダーはうなずくだけだった。 ヘリが進行をやめ、少しずつ降下していく。窓から下を見ると、医療班らしき人たちが医療用マスクをつけてベンダーを待ち構えていた。 着陸後、すぐに扉が開き、ベンダーを最優先にヘリから降ろした。担架に乗せ、すぐに船内へと運ばれていった。船内へ入る医療班員の後ろ姿を眺め、一息ついた。なんとか間に合った。 「二人もすぐ降りてくれ。俺はまたフェデリカに向かう」 プロペラが音を立てる中で、フランがブラッドたちに呼びかけた。ベッドホンは付けていなく、フランの声は怒鳴り声に近かった。 ダニエルは未だにふてくされているようで、何も言わずに一人で船内に歩いていった。 「こちらブラッド。無事にアルフレッド号に到着。ベンダーも意識がある状態で医療班に渡しました」 通信機で、フェデリカにいる隊員に連絡した。 「そんなことで連絡するな」 その声を聞いて、心臓が跳ねた。隊長のエドウィンだった。 黙り込むブラッドに隊長が続ける」 「他に用がないなら切るぞ。こっちは忙しい」 ブラッドもこのまま行き下がるつもりはなかった。 「こちらで何かすることはありますか? いざと言う時はいつでも向かいます」 「お前なやることは何一つない。船で大人しく待ってろ」 返事するまもなく通信が切れる。 「あとは頼みます」 ブラッドは一声かけて飛び立つヘリを見送った。
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