第一章 精鋭部隊の劣等兵

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数時間後、既に太陽は海に沈み、アルフレッド号から見える森も、暗闇に包まれていた。船から射す光と、月の明かりのみが辺りを照らしていた。 フェデリカに残っていた隊員も全員生還していた。隊員が帰ってきてすぐ、quiet隊員の集合がかかった。部屋にいたブラッドは急いで会議室に走った。 任務を終えた疲労感の漂う会議室は、変な緊張感があった。任務の緊張感が未だに残っているのか、それとも何かがあったのか。自然と背筋が伸びた。任務を終えてもなお、落ち着けない空気のまま、隊長が話し出した。 「今回の任務は成功したと言えるだろう。四つの出入口も完全に封鎖。その封鎖した出入口は明日、殲滅隊員が確認するそうだが、壊れていることもないだろう。ゾンビをフェデリカに閉じ込めるという、任務目的は達成された」 落ち着きのある声で淡々と語った。副隊長のアドラーが全身を脱力するかのように、椅子の背もたれに倒れた。安堵の表情で息を吐いた。 今回の任務はブラッド自身では、そこまで大きな任務ではない。上手くやれば戦闘する必要なんてない。しかし、入ってきたときの緊張感とそれが解けた今の状況は、とても普通とは思えなかった。 隊長が続ける。 「今日は皆よくやってくれた。殲滅隊員も我々の任務達成を喜ぶだろう」 殲滅隊員と聞いて、ベンダーの顔が浮かんだ。彼の容態は大丈夫だろうか。あとで会いに行こう。 そう思ったブラッドの心を読むかのように、隊長が口を開く。 「だが、君たちに残念な知らせがある。今日、共に任務をこなした殲滅隊員、ベンダーが先ほど亡くなった」 驚きを隠せなかった。緊張が解けた体に再び力が入った。ブラッドは動揺を隠せていない。他の者は驚くことは無かったが、皆険しい顔をしていた。さっきアルフレッド号に帰ってきた隊員たちはそこでベンダーのことを聞いた。聞いていないのはブラッドとダニエル。ブラッドの視線は自然とダニエルの方に行った。ダニエルは微動だにしていなかったが、目は大きく見開いていた。 「原因はゾンビに噛まれたことによる感染。アルフレッド号帰還後、医療班の検査中にゾンビ化した。念のためそこに居合わせていた殲滅隊員によって射殺。アルフレッド号内で他の被害者は出さずにすんだ」 会議室の空気は重かった。そんな中で慈悲を感じさせない語り口で語られた言葉は、さらに部屋の空気を悪くした。 立っていた隊長が席に座り一息ついた。そして、再び話し始める。 「我々は今までこのゾンビ発生の原因について追ってきた。しかし、このゾンビは自然消滅すると考え、そこまで優先すべきことではなかった。では、今はどうだろう。この惑星「アベル」の世界各地で被害が絶えないという情報がよく伝わってくる。今回のフェデリカの任務もそうだ。今こそ我々は立ち上がり、世界を救うときなのではないか」 普段、感情を見せない隊長だが、とても熱のある言い方に聞こえた。それは隊員全員が感じ取っていた。 「……これからどうするかは、決まっているのか?」 横のアドラーが言った。疲れを感じさせる声だった。今日の任務はこの精鋭が集まる隊員たちにとって、とても過酷なものだった。 アドラーの問いに、隊長のエドウィンが悩む仕草を見せた。少し間、会議室が静かになった。 「我々は、ゾンビが急増するこの現象を止めたい。そのために任務をこなす。しかし、この現象の原因もわからなければ、どこで何が起こっているかも分からない。長い間、手掛かりを探すことになるだろう」 ゾンビに関わる情報は世界各地に出回ったが、広がる途中でその情報は形を変え、偽の情報が出回るようにもなってしまった。真実の情報がはっきりしないまま、現象を拡大させてしまった。このアルフレッド号には数多くの情報がある。実践を踏まえて、偽の情報はほとんど排除されてきたが、残りの全てが真実という保証もない。 ブラッドもこのことはよく分かっていた。
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