第一章 精鋭部隊の劣等兵

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「これからもやることに変わりはない。支援を求めている場所へ赴き、多くの人々を救う。そして、情報を集めて原因を追求する」 今までと変わらないことを口にした後、さらに付け足しをする。 「だが、これまでとは違い、よりゾンビの関わる任務をより専門的に行おうと思う。我々は言わば、殲滅隊の精鋭部隊として扱われてきた。その殲滅隊との繋がりを切り、チーム「QUIET」として独立しようと思う」 船外での任務は、殲滅隊とQUIETで仕事を与え合い、手分けしておこなっていた。その関係を断つということは、協力を頼み辛くなるということだ。それぞれが別の行動を行えば、協力の要請があったとしても、人手が足りない可能性がある。 部隊がはっきりと分かれれば、やるべき任務がはっきりする。これにより、部隊の任務外での派遣はなくなり、休みが保証され、それぞれの組織の仕事量は減るかもしれない。しかし、任務や仕事の内容によっては、それを部隊の隊員のみで解決するとなると、一人当たりの仕事は多くなる。特に、QUIETの任務は増えていくことが容易に考えられた。ただ、それぞれの組織がほかに頼ろうとすることがなくなり、向上心が高まることもある この隊長エドウィンの提案は、メリットもデメリットもあった。 「さっきも言った通り、我々のやることは変わらない。原因を突き止めて、ゾンビという感染者をこの星から消す、それだけだ。今言った提案は皆にも同意してもらいたい」 隊長は全員を見回した。他の隊員は反対する理由もなかった。「QUIET」はアルフレッド号の精鋭部隊。特に危険な任務や特殊任務を専門とし、そして何より、世界を救う目的で作られたのだ。「QUIET」がやるべきことは明確だった。 「もちろん異論はない。みんなもそうだろ?」 真っ先にアドラーが賛成した。周りもその声にうなずく。 「で、これからについてどうするか、具体的に決まっていることは?」 これまで途切れることなく話し続けてきた隊長だったが、この質問には悩む様子を見せた。 「さっきも言ったが、今持っている情報が少なすぎる。原因もわからなければ、どこで何が起こっているかもわからない。まずはその情報集めに時間を割くことになるだろう。他に何か質問は?」 「……」 「それじゃあ、話はこれで以上だ。この提案は殲滅隊長のアスコートへ、私から伝えておこう」 隊長が言い終えると同時にダニエルが立ち上がる。 「じゃ、特に何もなくて仕事待ちってことっすね」 返事も待たずに部屋から出て行った。その時のダニエルの顔はブラッドが見たことのない、疲れた表情だった。 誰一人として、ダニエルを止める者はいなかった。彼の後ろ姿を眺めていただけだった。 「あと、ベンダーの容態は情報が入り次第……」 隊長が付け足すと、まるでその声を聞いていたかのように女性が部屋に駆け込んできた。 「失礼します!」 彼女は膝に手をつき息を切らす。ゆっくり体を起こし、ずれた眼鏡を直してこちらを向く。 ブラッドは彼女の名前を思い出そうとしていた。 「君は確か、クリスティア君だな」 ブラッドが思い出した名前を隊長が口に出す。 来たのは、今朝、ゾンビのサンプル回収の依頼に来たクリスティアだった。 「ベンダーさんの解剖が終わったので報告をしに来ました」 右手にもつUSBメモリーを高く掲げた。 「今すぐ見せてくれ」 「もちろんです」 隊長は自身が立っていた場所を開け、レーシアは静かに立ち上がり、スクリーンの準備を始める。ブラッドはその様子を見ていると、横にいたカリーナに突かれる。 「スクリーンくらい準備できないの?」 「あっ、すいません」 「いいよ今は私がやるから」 レーシアに止められ、罪悪感を感じながら椅子に座り直した。横でクスクスと笑い声が聞こえた。 スクリーンの準備を終え、会議室の明かりが消される。真っ暗の部屋の中で、スクリーンが映し出された。 スクリーンに映し出されたのは、人のレントゲン写真。腰あたりから頭まで撮られた写真だった。 「……なんだ……これ」 声を詰まらせながらアドラー呟いた。そう呟くのも無理はなかった。ブラッドも声が出かかっていた。
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