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アスコートは再び身体をこちらに向ける。
「君も突然呼び出してすまなかった。ゆっくり休んでくれ。色々辛いことを話してくれて、ありがとう」
アスコートが立ち上がる。
「あっ、自分が片付けておきますから」
掴みかけた椅子を話し、「たのんだよ」と一言言って扉へ向かった。出る直前でもう一度振り返る。
「今日の一日は、君にとっても非常に辛かったと思う。酷く落ち込むのも当たり前だ。でも、君が『QUIET』に入った以上、多くの人を助けなければならない。もちろん、それは我々も同じだ。ベンダー君のことは残念だが、落ち込まず、また前を向いて進んで欲しいと思う」
アスコートの目は真っ直ぐブラッドを見つめていた。返事をする間もなく、扉は閉じられた。
部屋は急な静寂に包まれた。ブラッドはしばらくそのまま立っていた。扉の向こうからも、窓の外からも、何も音は感じなかった。感じるのは波に船が揺れることだけだった。
「落ち込まず、また前を向いて進んで欲しい」
アスコートの言葉が脳内で繰り返された。ブラッドを励ます言葉だった。しかし、今のブラッドにその言葉は必要なかった。
「落ち込んでなんかいられませんよ」
独り言で自身の心を鼓舞し歩き出す。
ブラッドは落ち込むどころか、燃えていた。
第一章 完
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