第一章 精鋭部隊の劣等兵

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第一章 精鋭部隊の劣等兵

世界の中心となる街は一夜にして炎と煙に包まれた。燃えている街の炎の奥からは、女の悲鳴、誰かを呼ぶ声、子供の泣き叫ぶ声、そして微かに聞こえるうめき声、それをかき消す銃声。燃える木造の建築物は次々と崩れる。黒煙は空高く昇り、青い空を黒染めていた。その地獄の中でいくつもの人影がうごめく。それはもう人ではない。生きた屍という化け物が人間という次の獲物を探し、歩き回っていた。 「船内のquiet隊員に告ぐ。至急、緊急会議室に集まること。繰り返す、隊員は緊急会議室に集まること」 船内放送で、普段聞くことのない隊長、マルス・エドウィンの声が響いた。声の調子から、事の大きさは誰もが感じ取ることができた。 ただ、この船に乗って数日の新人隊員になりたてだったブラッドには、そんなことには気づかなかったわけで。 ブラッドは片付いていないダンボールの中にある書物を取り出し、読んでいた。200年ほど前の歴史が書かれた本だ。 以前、人間は今とは別の地球という星に住んでいた。しかし、数多くの天変地異によって、将来は地球で生きられないと判断して、多くの科学者が別の星に移住することを考えた。そして今、この星に暮らしている。この星はアベルと名づけられた。このアベルに人類が移ってから、歴史としては短い期間の話だが、この書物ほど深く詳しく書かれているものは珍しいだろう。このような歴史ある書物を読むのは好きだった。 そんな書物は机に置いて、ブラッドは部屋を出た。向かう先は勿論、緊急会議室だ。
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