Give&Take -食いつくわれつ-

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「ねえ、カサマツ……」  食べ終えて少し伸びをしたところに、すかさずヴァンピスがにじり寄ってくる。 「……風呂とかまだなんだけど。まあ、いいよ」 「うん……じゃあ」  着ていたシャツの首元を広げ、首筋が現れるようにする。ヴァンピスを膝の上に乗せ、牙を肌に沿わせた。小さな身体の重みを感じる。ごはんを食べてすぐの牙は、生暖かい。熱を持った吐息が首周りを支配する。 「……いただきます」  ヴァンピスは手と手を合わせることなく、代わりに私の両肩を強く掴んで、当たっていた牙を首筋の奥、頸静脈に突き刺さるまで咬み込んできた。皮膚が裂け、血管には穴が開く。血流が迸るのが分かる。 「くっ……あ」  この時間は、ヴァンピスとの生活が始まってから数週間が経った今でも慣れない。夢中になって血液を啜るような音を顔の側で立てられると、血液が足りなくなる感覚、ぼうっとして何も考えられなくなってくる……。 「っ……はぁっ! うっ……ごちそう……さま……」  ヴァンピスは血液を摂取し終え、私の首筋から離れると、その小さな肩を上下させて言った。 「はい……お粗末様……」  私も同じように、荒くなった呼吸を整えるようにして息をする。ふと膝の上のヴァンピスを見ると、その紅い瞳には涙が浮かんでいるようだった。彼女はまだ、童女だ。私よりも長く生きているけれど。  何も言わずに、ただ彼女の頭を撫でた。白い髪が手に纏わりついてくる。ぴくん、と彼女は身体を震わせた。 「ごめんなさい、カサマツ……。あの時、私が動転して、あなたの血を吸っていなければ」  あの夜、あんなにきれいな紅色を見たのは初めてだった。瞳と、それから、私たちを照らす月光。ゴミ捨て場の生臭さすら愛おしいと思った。回想が止まらない。裂ける。皮膚と血管が、裂かれていく。まだ言葉も話せなかった彼女に教えてやった。ごちそうさま、は? 「もう……良いんだって。食べ物に困ったら助けてやるのが道理なんだからさ」  泣かれちゃ困るよ。そんなことを言っても、彼女の声はまだ震えたままだった。ずっと、ずっと頭を撫で続けた。 「それにさ」  私知ってるんだよ、人間の食事のこと、一生懸命調べてくれてるんだよね。  そんな言葉は、言わないで胸中に秘めておいた。代わりに、やっぱりずっと頭を撫で続けた。ヴァンピスはそんな私の顔を見上げて、ようやくふっと微笑んだ。 〈終〉
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