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その教室は百人ほどが入ることのできる部屋だった。その百人という数字は全員が着席できる人数、という意味だ。
今、その部屋には百人以上の人がいた。部屋の後ろにずらっと並ぶ立ち見の人達。
ほとんどは日本人だが、中には外国人の姿もちらほらと見受けられる。
メモを取る聴衆も多い。
北海道医科大学内の教室。ごく一般的な大学の教室で、今、愛里の発表が終わろうとしていた。
「――That's the end of my presentation. Thank you for listening.」
愛里は自らの発表をそう締め括った。
全て英語の十一分間。生粋の日本人である愛里には相当辛かったが、何とかやり遂げた。
今までの研究をこの短いようで長い十一分間にぶつけたのだ。
座長が聴衆に向かって問いかける。
「Does anyone have any questions or comments?」
まだ終わらない。聴衆からの質問に答える時間が残っている。
「These test results are deeply fascinating. But...」
研究発表の場ではまったく予期もしていなかった方向から質問が飛んでくることもある。
目の前の男性の質問は、その試験結果は別の要因で引き起こされたものであり、愛里の立てた筋道とは関係がないのではないか、というものだった。
「Thank you for asking.Now, we are conducting animal study in order to demonstrate the EPR effect. We will continue to experiment it」
それから二、三個の質問を切り抜け、気付けば発表を始めてから十五分が経過していた。タイムキーパーが発表を終わらせるために、ベルを三回鳴らした。
終了だ。
降壇し、次の発表者と入れ替わる。
自分の席に戻ったとき、最初に質問してきた男性が話しかけてきた。
「素晴らしい研究発表でしたよ」
英語で質問を受けたが、質問者は日本人だ。国際学会で外国人の聴衆もいるため、敢えて英語で質問していたのだ。
「ありがとうございます」
愛里は目の前の男性に頭を下げた。どこかで見たことのある顔だ。見た目はかなり若い。どこかの大学の教員だろうか。
「質問を幾つかいいですか。四分という質疑応答の時間は如何せん短すぎます」
次の発表が始まるため、愛里と男は部屋の外に出た。
人でぎゅうぎゅう詰めの部屋から出て新鮮な空気を吸うと、愛里はようやく落ち着いてきた。
「吸収動態は今、試験しているところかと思いますが、放射性同位体を使った標識薬剤のトレース試験は考えているのですか」
丁寧な口調の男性は、ワックスで自然に固めた頭髪に、きちんとした小綺麗な身なりをしていた。かなり高そうなジャケットを羽織っているが、品が良く、見る者に好印象を与えている。
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