第5章 無毒のポイズナー

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「証明がまだ途中ですよ。諦めてませんよね」  心に、火が灯った。 「もちろんです。言ったでしょう。後悔させないと」  コンコン。部屋がノックされる音。入ってきたのは警察官だった。 「第一発見者のおふたりですね。お名前は、神楽坂愛里さんと福豊颯太さん。東央大学の学生さんで学会の参加者。詳しい話を聞かせてください。署までご同行願えますか」  愛里が立ち上がる。 「ええ、分かりました……――ただ、その前に」  愛里が眼鏡を指で押し上げる。 「私に情報を貰えませんか。そうしたら、私がこの事件を解決してみせます」  愛里が啖呵(たんか)を切った。 「そういうのは署に着いてから……」 「任意同行ですよね。でなければ私はここを動きません」  愛里は椅子に音を立てて座る。警官は困ったような顔した。 「お、俺もです!」  颯太も動かないという意思表示のためか、目の前の机の上に手を置いた。 「困りますよ。あのですね、第一発見者だからといってあなた方を犯人だと疑っているわけではないのです。別に心配しなくても……」 「知りたい情報はみっつです」  警官の言葉を遮って愛里は畳み掛ける。 「ひとつ。火災報知器はどなたの部屋で、なぜ鳴りましたか」 「ちょ、ちょっと……」 「ふたつ。芦屋先生のスマホから事件前に電話か何かが発信されませんでしたか」 「君! いい加減に……!」 「みっつ! 肝臓の入った容器は今、誰が持っていますか?」 「は? 肝臓……?」  警官はもはや何を聞かれているか分からないようだった。確かに、一介の見張り番にこんなことを聞いても答えてくれるはずがない。だが、狙いはバックにいる存在だ。  そう。まだ若そうな警察官の背後、部屋の外にいる男性。部屋の入口から腕だけが見えている。制服を着ていないことから恐らく……。 「面白いこと聞く第一発見者だな」  小さな会議室の部屋の入口からのそりと顔を覗かせたのはガッシリとした体型の中年男性だった。
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